いばらきの生産者

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 メロンの生産量が全国で最も多いのが茨城県であるということが、全国的にも広く認識されるようになってきました。今回取材に訪れたのは、栽培に適した風土に恵まれた鉾田市旭地区において、茨城のメロン作りの創成期から50余年、3代に渡りメロン農家を営んでこられたファーム長洲です。
 2代目の長洲道豊さんは「メロン作りの達人」と称されるほど、いかにおいしいメロンを作るかにその半生をかけてきました。長年JA茨城旭村メロン部会の部会長も務めながら、鉾田のメロン栽培の振興に貢献されてきた方です。
 今回お話を伺ったのはその後を継いだ長男の陽介さん。先代たちが妥協のないメロン作りを続けてきたなかで蓄積してきた貴重な栽培ノウハウを、引き継ぐだけでなく、自分らしい色も加えつつこれからに繋げようとしています。
 今まさに変換点にあるファーム長洲ですが、その変化のシンボリックな存在が、数年前から手がけている「優香」という品種です。取材記事をお読みいただく前に、まずはその卓越した特徴をお伝えしておきましょう。

 優香は、表皮に網目模様のあるネット系青肉メロン。熟してくると表皮が緑色から明るい黄褐色へと変化し、名前の由来にもなった優美な香りを馥郁とさせます。肉質はなめらかで適度な歯応えがあり、果汁が溢れるほどにジューシーです。糖度は高いのですが、すっきりと澄んだ甘味でくどさを感じません。果肉は極めて厚く、果皮直下まで軟質多汁。皮の際まで食べられるので可食部が多い。軟化しても発酵しないので、メロンが苦手な方の感想に聞かれるえぐみ、苦味、舌や喉に残るイガイガした感じなどの雑味がありません。後口もさっぱりと、余韻まで優しく爽やかです。

メロン好きが二度見する美味しさ

−ファーム長洲で作られているメロンにはどのようなものがありますか。また、最近話題の「優香」という品種はいつ頃から作り始めたのでしょうか。

長洲さん 当園の春メロンの主力品種はオトメ、アンデス、クインシーの3種類です。爽やかな甘さが特徴のオトメメロンは4月中旬〜5月下旬の収穫。しっかりとした甘さで手軽にマスクメロンの風味が楽しめるアンデスメロンは、4月中旬から6月中旬まで。アンデスとほぼ同時期に採れるクインシーメロンは果肉がオレンジ色で、独特の香りと濃厚な味わいが特徴です。優香メロンは例年6月中旬から7月中旬の収穫を見込んでいますが、まだそれほど収穫量が多くないところに人気が先行し、今シーズンは予定よりも早く7月初旬で終売になってしまいました。
 暑さも本番8月上旬からは、アールスメロンが登場します。アールスメロンはマスクメロンの代表的な品種で、立体的で美しい網目の外観やムスクを連想させる濃厚な香り、甘くてとろけるような食感など、高級なメロンのイメージそのものであることから、メロンの王様と言われています。

 当園で優香を作り始めたのは、今から6年前のことです。知人から10本程の苗をいただいたので自宅用に作ってみたのですが、別格のおいしさに家族そろって驚きました。日頃からとにかくおいしいメロンを作りたいという気持ちでやっていますから、これならきっとお客様にも喜んでいただけるだろうと確信しました。
 翌年からは販売を視野に入れて栽培に乗り出し、商品として市場に置いていただける段取りをつけました。試食してもらった友人知人からの評価も上々で、購入された方からのリピート率も非常に高く、特別な宣伝をしなくてもその味の良さが口コミで広がり、年々引き合いが増えているところです。

 この地区でも他に何名か作っている方はいるのですが、その栽培には手間がかかりロス率も高いため、自宅消費用に5本10本という単位で、余剰分のみ販売に回しているという感じです。ですから市場に出回る量は他品種に比べて圧倒的に少なく、メロン市場に占める割合を算出することもできません。今現在は「その他メロン」に含まれて分類されています。

 優香という品種名や、それが黄色いメロンであることをまだご存知ない方が多く、以前贈答品として遠方に送った際には、「こんな黄色くなった(悪くなった)メロンを送ってきた」と誤解されたこともありました。しかし一度食べた方は「え、何これ!」と、皆さん次回は優香を買いたいとおっしゃいます。ここ数年は“幻のメロン“などと紹介されることもあり、春メロンの季節が始まると、「優香はまだですか」というお問い合わせを多数いただくようになりました。

−優香は栽培に手間がかかりロス率も高いというのは、具体的にどういうことでしょうか。

長洲さん 優香はハウス這栽培で子蔓2本仕立て。充分な甘味がのるように、1本の蔓に厳選した2つの果実だけを残して栄養を集中させ、株に無理をさせない作り方をしています。甘味、形、大きさのバランスのとれた実を育てるには、まずは大きくて肉厚の元気な葉を育てる必要があります。しかしメロンの葉は湿度に弱く、多湿状態だとすぐ病気にかかってしまうので、栽培中は常にハウス内の温度と湿度を小まめに調整しなくてはなりません。
 その日の天候によって何十棟というハウスの窓のすべてを、何度も開閉して適正な環境を保つのは手間のかかる作業です。例えば朝は雨、昼は晴れて午後は雷という日などは、それらの管理に追われて他のことが全く進まない日もあります。
 加えて、優香は土の上に蔓を這わせたところに実がありますので、満遍なく日が当たるように向きを変えたり、細心の注意をはらって丁寧に扱うのですが、それでも中には色づきにムラがあったり、傷ができたり、身が割れたりというケースが出てきます。そうした割合が他の品種よりもだいぶ多いのです。数を絞って手間隙かけて育てたにも関わらず廃棄率が高いということが、作り手がなかなか増えない要因にもなっていると思います。

絶品メロンにふさわしい広め方

−今シーズン輸送用の段ボール箱を新調されました。シンプルなデザインを採用され、これまでの一目でメロンとわかる箱とはだいぶ印象が変わりましたね。

長洲さん 優香に関してはファーム長洲という名前を全面に出していきたいという気持ちが湧いてきて、いわゆるブランディングをしたいと思うようになりました。長年さまざまな品種を手がけてきましたが、それだけ優香が特別なメロンだということです。
 作り手の少ない希少なメロンを、特別に手をかけて作っている。一度食べていただければ、その価値をわかっていただける商品である。今後はその特性にふさわしい販売方法を考えていきたいと思っています。
 まずはロゴマークを考案し、それをモチーフにして箱を作ったところです。できるだけシンプルにと希望していましたが、父からの要望があり、小さいながらメロンのマークも入れました。この箱を見たらファーム長洲のだと認識していただけるよう、1日も早く当園の顔として浸透することを期待しています。

−優香はどこに行けば買えるのでしょうか?また知名度を上げるためのプロモーションはどのようにお考えですか?

長洲さん 販売方法に関しては実はまだ確定していません。直接販売に関しては、これまでの庭売りに加えて来季からはネット販売を検討中です。実店舗での販売ついては、今年は県内の直売所や百貨店などでお取り扱いしていただきましたが、来季についてはまだ白紙状態で、これから検討していくところです。
 メロンに関する情報はホームページやインスタで発信しています。インスタでの反応は即時性が高く、販売情報を出すとすぐに反響があります。購入された方がきれいな写真をあげて下さるので、その辺りもブランディングを急ごうと思うきっかけでした。
 また優香を作り始めた当初、試食的に食べていただいた方々がそれぞれに発信してくださり、そこから広がった口コミにも確かな手応えを感じています。ご購入いただいた方のリピート率は非常に高く、50%を超えているのではないかと思います。情報社会と言われる今の時代、本当においしくて本当に良いものを作っていれば、自らつよく働きかけなくても需要は伸びてくるものなのだと実感しているところです。

優香をめぐるこれまでとこれから

−作るのが難しいと言われる品種を初年度から完成度高く仕上げられたのも、先代が培ってきた高い栽培技術があってこそですね。メロン作りの名人と言われるお父様からはどのようなことを受け継がれましたか?また最後に優香の今後の展望についてお聞かせください。

長洲さん 栽培方法について父から手取り足取り伝授されたという記憶はないのですが、日々一緒に仕事をしている中でそのやり方は見てきました。しかし父とは違うやり方にトライしてみたくて、自分が就農してからのこの12年間、教わるということに関しては、他の農場や父以外の先輩方に教えてもらう機会の方が多かったように思います。
 他の方の意見を参考に、自分なりのやり方を取り入れて変えてきた部分もありますが、しかしいろいろやってきた中で、やはり大筋は父のやり方に辿り着いたというか。自分のやりたいことに一番近いのが父のやり方だったということがわかりました。
経営面に関しては私の方針で進めていくと思いますが、こと栽培に関しては、いいメロンを作るのが生き甲斐という父のやり方を踏襲する部分が大きいだろうと思います。
 今後の目標は、まずは優香の収量を上げていくことです。人手の問題等もあり、いきなりハウスを増設というわけにはいきませんので、来季に関しては他の品種との割合を変えて、優香の作付けを増やそうと考えています。また共に優香を作ってくれる仲間を増やし、いずれは地域全体での収量を上げていきたいです。
 優香は廃棄率が高いというお話しをしました。見た目だけの問題で市場に出せないものを、今は廃棄という方法しかないけれど、実際は食べるのに支障のないのも多く含まれています。それらの活用の場も見えてきていますので、共感してくれる仲間を増やし、勉強会等を通して共通認識を育てながら、収量アップを図っていきたい。そうして妥協のないおいしいメロンをお届けすることで知名度を上げていきたいです。

【取材録】

 以前お父様の長洲道豊さんにも取材させていただいたことがあります。その時にお聞きした「どんな時にもメロンを諦めず、仲間と共に乗り越えてきた」という言葉が心に残っています。手間がかかるメロンを常に最高の状態に仕上げ、市場に供給し続けてきた結果、20年もの長きに渡り、茨城県がメロン栽培トップの座を守り続けている今に繋がっています。
 6年前に初めて長洲さん親子が栽培を手がけた優香は、まだ認知度も低く、収量も少なく、今現在、産地と呼べる地域がありません。しかし冒頭でご紹介した特徴の通り、非の打ちどころない魅力ある品種。ここ数年でコアなファンを獲得しています。「メロンといえば茨城県」が定着したように、いずれは「優香といえば…」と、その名産地として、鉾田、茨城の名が上がる日がやってくることを期待せずにいられません。

ファーム長洲ホームページ
https://farm-nagasu.com/

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