いばらきの生産者

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 東は太平洋、鹿島灘に面し、北は涸沼、南は北浦に接する鉾田市。気候は温暖で、水はけが良い肥沃な土壌で作られる野菜の出荷量は日本一を誇ります。ですが、そんな鉾田でスイカを主として生産している農家はわずか4、5軒です。限られた生産者の一人、大場克利さんは、同じく鉾田のスイカ生産者、高島修一さんとは親戚関係です。
 農家という環境で育ち、旬のものを食すのが当たり前だったという大場さん。多くの人に、旬のおいしさをその場で味わって欲しいと言います。そして「おいしかったよ」と言ってもらえることが一番の励みになっているとのこと。自然相手の難しさを感じながらも日々おいしいスイカを作るため試行錯誤し、ひたむきにスイカ作りに向き合う大場さんに話を伺いました。

カットスイカや小玉スイカが主流に

−大場さんはどんな品種を栽培していますか?

大場さん:
 スイカは「天龍」という品種をメインで作っています。それと、黒い小玉系を数年前から始めました。小玉も人気があるんですよ。大玉中心でやっていたのですが、「冷蔵庫に入らない」という理由で、大玉よりも小玉が好まれるようになり、「こだまスイカ」も栽培するようになりました。水戸の市場に出荷しているのですが、小玉箱に2個入りで「グルメ」という名前で出しています。
 いちばん土質に合っているのは長年栽培している「天龍」ですね。最初は「早生日章」というスイカを栽培していましたが、果肉が柔らかくて、割れやすい品種でした。需要はだんだん変化しています。世の中に求められるスイカを提供していければと思います。今のようなカット売りがなかった何十年も前に、市場で「カットスイカに使えるスイカが欲しい」と言われ、割れやすい「早生日章」から硬めの品種に変え、それからカットスイカが主流になりました。最近では、2021年から「ぷちっと」という新しい品種を試作しています。種が小さくて一緒に食べてもあまり気にならないスイカです。

 

 

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露地栽培からハウス栽培へ

−鉾田ではスイカの旬は5月と伺いました。スイカと言えば夏のイメージでしたが、昔と今ではどんな違いがあるのでしょう?

大場さん:
 5月が旬ということを知らない人は多いかもしれません。直売所に通ってくれている人でしたら5月からスイカが並び始めることは知っていると思います。昔のスイカの旬は7月から8月でした。私が子どもの頃は、7月やお盆の前にスイカをいっぱい食べていた記憶があります。海水浴にスイカを持っていくこともありました。昔はハウス栽培はなく、露地栽培で作られていました。ビニールハウスで栽培されるようになり、出荷が5月からできるようになったということです。5月のスイカの方が味が安定しています。日中と夜温の寒暖差があればあるほど、糖度が上がるのですが、5月頃が最も甘くなります。

 高校卒業後、父親とハウスでスイカ栽培を始めて40年になります。もともと父親は葉タバコやサツマイモなどをメインに栽培していたんですが、ちょうどその頃、鉾田でメロン栽培が盛んになってきた頃ですね。ビニールハウスで栽培されるようになり、農業の仕方も変わってきました。高島のおじさん(高島農園、修一さんのお父さま)が長年スイカを栽培していて、高島さんの影響でスイカを作るようになりました。就農した時はちょうど、ビニールハウスでメロン栽培をする人が増えて、この鉾田、旧旭村がメロン栽培で注目を集めてきた頃です。

−スイカを栽培する上での難しさはどういうところにありますか。

大場さん:
 6月の梅雨の時期は、どうしても余計な水分を吸ってしまうので糖度が落ちてしまうというのはあります。ハウスの中で育ててはいますが、根はハウスの外まで伸びていて余分な水分を吸ってしまいます。5月が安定しているというのはそういうところからなんです。収穫前には、余分な水分は与えません。トマトもそうですね。甘いトマトを作るには水を極限に減らして。ただ、その分、実は大きくなりません。そのバランスが大切なんです。
 受粉は一つひとつ手作業で行います。3月10日から交配が始まるのですが、例年だと、10日くらいずっと同じハウスに入って作業をしています。家族で作業するのですが、花が開いている間にやらなくてはいけないので、ピーク期は朝8時に始まって午前中はずっとその作業をします。土壌は、養豚をやっている友人から堆肥を運んでもらい、米糠なども混ぜて1年寝かせたものを使用しています。ハウス栽培は直接雨に当たらないので病気にもある程度対応できるし、害虫も防げるので、その分農薬を減らせるのがいいところですね。

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未来に残していくために、”価値あるもの”の魅力を伝えていく

大場さん:
 月に一回、直売所に生産者が出向いて、お客さんにその場でスイカの食べ比べしてもらう、ということをしていた時期がありました。直売所にはいろいろな県から人が来ています。「おいしい!」という言葉を直接お客さんから聞けたり、話もできたり、とてもいい機会でした。そんなふうに、お客さんと直接触れ合えるような場所ができるといいなと思います。
 スーパーで売られているカットスイカは、いつ切ったか分からないし、どうしてもタイムロスがあります。やっぱり鉾田に来たら、”おいしいものがその場で食べられる”というのが理想ですね。収穫してすぐの鮮度と香りを味わっていただきたいです。産地ならではの魅力をそうやって伝えられたら嬉しいですね。

 今は長男が手伝ってくれています。はじめは農業は自分の代まででいいかなと思っていました。ですので、息子に対して「農業をやって欲しい」などは一切言いませんでした。でも、息子から「農業をやる」と言ってくれたので、やる以上は頑張ってもらいたいです。自分の時もそうでしたが、親子だと、教えてもらうというよりは親父のやり方を見て覚えていく。やり方自体は何年かやっていれば覚えると思います。プラスアルファは自分で見つけていくしかありません。自分は何をすれば今よりも良いものが作れるのか、親父を越えるにはどうすれば良いか、自分で見つけるしかないと思います。はっきり言えるのは、まるっきり同じことをしていても、それ以上のものは作れないということです。

 少し値段が高くても、やっぱり国産の物は安全安心だと思います。日本の物はものすごく基準が厳しいので、食べるなら国産のものをおすすめします。人間が生きていく上で食は大切です。年齢を重ねて、食育は大切だなって改めて考えるようになりました。自分の家は農家でしたので、自然と旬のものを口にしていて、そういうのが当たり前だと思っていました。でも、一般家庭ではそうではない。せめて、産地に行ったら、鮮度の良いものがたくさん食べることができる。そうやって産地の魅力を伝えられたら、これからの人の農業に対する意識も変わってくるかな、という思いもあります。大変な仕事ではあるけれど、それだけじゃない。自分が作ったものが「おいしかったよ」って言ってもらえるその言葉が一番の励みです。

【取材録】

食文化は時代と共に変化している、そしてその変化と共に農家さんが作るものも変化しています。食は私たちの生活に欠かせないものですが、一般に知られていないことが本当にたくさんあると思います。大場さんがおっしゃるように、直接生産者さんと触れ合う場所があったら、生産者さんが作る作物をもっと身近に感じ、もっと魅力を理解できるのではないかと思います。日々、変化していく食文化に対応しながらも、常に試行錯誤しながら、よりおいしいものを生産していく姿に頭が下がります。旬の食材をその場で味わっている自分の姿を想像し、近い将来、そういう場所が増えていくことを願って止みません。

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