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HOMESPECIAL > 地域に受け継がれる伝統野菜「里川カボチャ」

 澄んだ空気が広がる茨城県常陸太田市の最北、福島県との県境にある里美地区⾥川町で作られている「⾥川カボチャ」。淡い桃⾊の表⽪が特徴の地域伝統野菜(在来種)です。⽢く、ほくほくとした⾷感、⾆触りが滑らかで他に類を⾒ない味わいです。 里川町は標高が高く昼夜の寒暖差が大きい地域。その寒暖差が糖度の⾼いカボチャを育みます。もともと、⾥川カボチャは「⾥川の⼟⼿カボチャ」として⻑年⾃家採取が繰り返されてきました。そのため、他の種類のカボチャと⾃然交配も多く、原種本来の特徴が失われつつありました。
 2008年、町おこしの⼀環で、⾥川かぼちゃ研究会代表の荷⾒ 誠(はすみ まこと)さんを中⼼に⾥川カボチャの品種の復活と固定化に取り組み始めました。⽇々研究を重ね、原種の復活、徐々に品質と⽣産量を安定させてきました。

 ⾥川地域の環境でできる貴重なカボチャを⼀年中楽しんでもらえるように、パウダー状に加⼯した「⾥川カボチャパウダー」があります。企画、⽣産と販売を⾏っているのは、⾥美地区にある「合同会社 ポットラックフィールド里美」。代表の岡崎 靖(おかざき やすし)さんは、規格外などの理由により店頭に並べられないカボチャを活⽤できないか、試⾏錯誤した末、パウダー状に加⼯することにたどり着きました。

 里山の⾃然が多く残る⾥美地区。⽥畑や⼭々の⾵景を眺めながら、ポットラックフィールド里美へ向かい、代表の岡崎さん、⾥川カボチャの⽣産地⾥川町で荷⾒さんにお話を伺いました。

⾥川カボチャ原種の復活

荷⾒さん:
 ⾥川カボチャの原種を復活させるために、”⾥川カボチャ研究会”を地域で⽴ち上げました。共同育苗ハウスを作り、そこで種や苗から管理し、同じツルで交配を⼿作業で⾏い、袋をかけて他の種と交わらないよう努めました。種は⾊、形、味の良いものを残しました。⾒た⽬も特徴のあるカボチャを求め、珍しいピンク⾊の⾥川カボチャの種を残し、それらを繰り返し⾏うことでピンク⾊の⾥川カボチャが定着。活動を始めてから8年、ようやく求めていた色のカボチャになりました。
 私のひいお爺さんからこの地に住んでおり、私で4代⽬です。ここは、⽣産地の中でも標⾼が⼀番⾼く、740m。筑波⼭頂に近い⾼さですよ。⾥川地区は⼈数が少ないので何かやるとなると⼀気に人が集まり、まとまりがとてもいい。私は町会⻑をやらせていただいたものですからその流れで、⾥川かぼちゃ研究会の会⻑になりました。

安定した品質を保つために

荷⾒さん:
 4⽉中旬から5⽉下旬ごろまでが種まき、約1ヶ⽉後に定植します。5⽉下旬に種まきしたものは暖かい時期なので発育が早く、6⽉20⽇ぐらいには植えられます。収穫は9⽉から11⽉下旬頃までです。⾥美の直売所、常陸太⽥の道の駅で販売しています。⾥川カボチャを⾷べた⼈から、うちの店で扱いたい、という問い合わせがありました。⽣産者は現在、22件ほど。⽣産場所が限られていて、今年採れた分は配布場所も既に決まっているものがほとんどで、そういった急な対応は数が⼗分でない分、難しいですね。

岡崎さん:
 生産量の増加に伴い、規格外などで出荷できないものも増えてしまいます。限られた⽣産地の中で出荷できる品質のものを増やしていけたらいいのかなと思います。⾥川カボチャは、⼗分に熟成させて収穫するから⽢みが強い美味しいカボチャになります。その⽬安となるのがヘタの部分。コルク状になってから収穫し、さらに、ヘタの部分を⼗分に乾燥させ、中と外との⽔分のやりとりがなくなってから出荷するのが⼀番いい状態だと思います。そうやっていい状態で収穫できれば品質がよいものが増え、統⼀されるのかなと思います。荷見さんはそのために日々の研究を続けています。

出荷できないカボチャをパウダーにして活⽤

岡崎さん:
 味に変わりはないのですが、傷がついたもの、⼤きさが規格外に⼤きすぎるものなど、これまで廃棄していたものをなんとか活⽤できたらと考えました。最初はペースト状を試してみたのですが⽔分量が多い分、品質を保ちながらの流通が難しい。 パウダーだと、設備投資も少なく乾燥することで品質も保てます。パウダー状にしたことでいろいろな⽤途に使えるので使う人には便利なようです。現在、⾥美の道の駅と常陸太⽥の道の駅で販売しています。

岡崎さん:
 「⾥川カボチャパウダー」は、洋菓⼦屋さんで使われることが多いのですが、ポタージュスープを⼿軽に作れたり、ご飯やお餅に⾊を付けたり、使う⼈のアイデア次第でいろいろな⽤途に使えると思います。お菓⼦作りやパン作りをする⼈は、材料に混ぜて⾊をつけたり、パウダーの量を増やせばもちろんカボチャの⾵味も味わえます。和菓⼦ に使うのもおすすめで、⽩い餡に混ぜれば着⾊料を使わなくても着⾊できます。⼀度使っていただいた⽅からは使いやすいと評判で、リピートして購⼊いただく⽅も多いです。 
 パウダー状に加⼯するカボチャは、荷⾒さんのところから分けてもらっています。荷⾒さんは、種や傷の部分を取り除いた状態で使えるところだけ集めて必要な分の重さを計ってくれるので、とても助かっています。 

地域の⼈たちとの出会い、⾥美の地で⾃分が役に⽴てることを求めて

 岡崎さんが、理想の⾥⼭暮らしを求めて⾥美地区に家族と共に移住したのは1997年のこと。⼦どもの頃、夏休みに過ごした、よき思い出が残る⽗親の故郷、福島の⾵景と重なる部分があったという⾥美地区。⾥美が好きで引っ越してきた⼈に対して地域の⼈たちはウェルカムの印象があったと⾔います。移住した当初から荷⾒さんとは交流がありました。地域の⼈たちとの関わりも多くなってきた頃、岡崎さんはシステムエンジニアとして忙しく働く⽇々から⾥美で働くことを決断したそうです。

岡崎さん:
 単⾝赴任で滞在していた東京から⾥美に帰ったときに、東京はまだ暑いのに⾥美では稲刈りが終わっていて季節は秋に変わっていました。季節を感じられる場所に⾝を置きたいと辞める決断をしました。縁のあった⾥美の酒蔵、その後醤油蔵で働きながら、地域活動、森林インストラクターの活動を⾏ってきました。地域の活動では地域の有志と 「⾥美の⽔プロジェクト」を結成し、⾥美の⽔とそれを育む環境の⼤切さを後世につなぐための活動を始めました。

 そして、2015年活動を共にしていた仲間である元地域おこし協⼒隊員と「合同会社ポットラックフィールド⾥美」を設⽴。地域の声をベースとして、地域産品の開発・販売や、情報発信、教育事業など、地域の内と外をつなぐ役割を担ってきました。

岡崎さん:
 最初は、⾥美に暮らすことが⽬的だったので何かをしようとは考えていませんでした。地域の⼈との交流が増えていくうちに、⾃分にも何か⾥美の役に⽴てることはないか、と考えるようになりました。「⾥川カボチャパウダー」に取り組んだのもそんな思いからでした。 

地域らしさを表す商品とその暮らし

 ポットラックフィールド里美で扱っている商品は、「⾥川カボチャパウダー」の他に、「⾥美珈琲」、「ホーリーバジルのハーブティー」があります。
 「⾥美珈琲」は、豊かな森林環境 が育む⽔の素晴らしさを伝えるための活動「⾥美の⽔プロジェクト」で作られた珈琲で、その企画と販売を⾏なっています。「ホーリーバジルのハーブティー」は⽣産から企画、 販売までを⼀⼿に⼿掛けています。国道沿いの耕作放棄地にハーブを栽培することで、花のある美しい景観をつくり、少しでも訪れる⼈たちの⽬を楽しませられるようにという思いで始まりました。
 現在、岡崎さんは、ポットラックフィールド里美の事業の他に、就労⽀援や⼦育て⽀援にも関わっています。その就労⽀援の活動の⼀環として、ハーブと触れ合いながら働ける場として畑を提供することにも取り組んでいます。
 ポットラックフィールド里美の商品の背景には、会社設⽴当初からの思い、⾥美を取り巻く環境を始めとしたすべての⼈、組織、社会が⾃らの役割を全うしながら、幸せに⽣きていける地域社会を⽬指すというのがあります。

岡崎さん:
 規模は⼩さいけれど、地域でやること、やれることはたくさんあります。地域の困り事を聞いたり、持続可能な暮らしができるように、身近な地域資源を活かし、自分達の手でやれることを少しづつですが続けています。やっていることは決して大きなビジネスではないけれど、それが誰かのヒントになったり、いろんな形で発展していったらいいなと思います。

【取材録】

私たちが知らないだけで⽇本には素晴らしい場所がまだまだ数多く残っていると思います。⾃分が住んでいる町や、もしくは訪れた先で、この素晴らしい⾵景をずっと残したいと思う体験を⼀度はしたことがあると思います。その素晴 らしい⾵景が保たれているのは、そこに住む⼈だったり、そこで作られているものだった り、地域で⾏われている活動だったり、いろいろな要因によって、私たちが⽬にする⾵景 となって現れているのだと思います。岡崎さんは、そういった風景を後世に残していくために、地域の⼈たちの思いにも⽿を傾けながら活動を続けています。かつて⾃⾝が体験したように、⾥美の⾃然の豊かさが原⾵景となるようにとそんな体験の提供も。 思いだけではなく、実際に活動する岡崎さんのすごさをじわじわと感じました。 ポットラックフィールド里美が企画、販売する商品は、そういった地域に対する思いが 詰まった温かい商品だと感じました。 

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