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 一面に畑やハウスが広がる農業のまち・鉾田ならではの景色を眺めて県道114号を進むと、目に飛び込んでくる「箕輪農園株式会社」の看板。農業の盛んなこの地においても、「農園」の文字と「株式会社」の文字が並ぶケースはそう多くありません。箕輪農園株式会社は、長いもの栽培を専門とする農園。高祖父が始めた事業を、専務取締役を務める長男の竜さんが5代目として、栽培・経営の両面から拡充・拡大を図ってきました。東京農業大学で学んだ土壌の菌に関する知識を生かした栽培環境づくり、よりよい人材への技術承継を目指しての法人化、安定した取引先との関係を見据えたGAP認証取得など、積極的な農園経営を行う竜さんに、これまでの農園の歩み、長いもづくりの醍醐味、そして、今後の目標などについて伺いました。

畑の生態系を整えることが、よい長いもづくりの秘訣

−箕輪さんが長いもづくりを始めた経緯から教えていただけますか。

箕輪竜さん(以下、箕輪さん):
 もともとは、僕の高祖父が鉾田で開墾して麦や小麦やサツマイモなどを始めたのが箕輪家の農業の始まりだったようです。その後、今から40年ほど前に、父が長いも栽培を始めました。僕自身は、小さい頃から農業の手伝いをしていましたけれども、早くから就農を決めていたわけではなく、将来のいろいろな可能性を考えて、東京農業大学に進みました。そこで土壌の研究を進める中、良い先生に巡り合い、卒論の題材として実家の畑の土を調査し、それがきっかけで、卒業後は鉾田に戻り、父とともに長いもづくりに携わるようになりました。
 2012年頃、大手食材宅配業者さんと契約し、一年を通じて安定したご注文をいただけるようになったことが、箕輪農園としてはとても大きな転機となりました。大がかりな設備投資も可能になり、おかげさまで長いも農家としてはかなり大きな規模で展開することができています。安全・安心をモットーにしている食材宅配業者さんなので、うちがJGAP認証(日本GAP協会による農業生産工程管理認証。食の安全や環境保全に取り組む農場、生産者団体を審査・認定する仕組み)を取得していたことなどを評価していただきました。

−土壌など畑の環境づくりにも気を配っていらっしゃるそうですね。

箕輪さん:
 畑の状態をできるだけバランスよく保つことを心掛けています。気象条件によって土の中の菌や養分の状態もさまざまに変化しますので、安定した状態を保つことはなかなか難しいのですが、化学的なこと、生物学的なこと、物理的なことを総合的に判断し、バランスを整えるように努めています。以前、父が長いも栽培を始めたころは、収穫が終わると一度土壌の殺菌をしていたこともあるのですが、無菌状態の土にいったん病原菌が入るとかえって増えてしまうんです。なので、ここ20年は、悪いものを減らすというより、不足しているものを追加してバランスを整えることを意識しています。
 土壌の菌だけでなく、地上の葉につく虫についても、最近は同じように考えるようになりました。当初は、葉を食べる虫は全部やっつけてしまおうと考えていたのですが、躍起になればなるほど増えてしまうことになって。葉が全部枯れてしまう状態に陥ったこともありました。原因は、長いもづくりに活躍してくれる虫まで一緒にやっつけてしまっているからなのだと気づき、それ以降は、ある程度虫も許容する方向に舵を切りました。試行錯誤の連続でしたが、結果的にはより良い畑の状況を維持できるようになり、今は、畑の生態系を整えることこそが、よい長いもづくりにつながると確信しています。

−そういった栽培環境づくりに共感する消費者も多いと思います。

箕輪さん:
 おかげさまで昨年は、契約している食材宅配業者さんの「公開確認会」という、ユーザーの方に栽培の現場を確認してもらう会の対象にも選んでいただきました。「葉に虫がいるかもしれませんよ」とお伝えしながら畑を案内しましたが、そういう状況のほうが、今の消費者の方はより安心されるのだと実感しました。これからも、栽培する姿勢も含めて「箕輪農園の長いも」のファンになっていただけたら、という想いでいます。

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世界に向けて「箕輪農園の長いも」の魅力を発信していきたい

−あらためて長いも栽培の流れを教えていただけますか。

箕輪さん:
 長いもをよく召し上がる方でも、どんなふうに栽培して収穫するのかは、知らない方が多いですよね。
 長いもは、夏に地上の茎に「むかご」という小さな実のようなものをつけます。それを1年間栽培したものを「種いも」にします。前年の11月頃から土づくりを始めて整えた畑に、4月頃、種いもを植え付けます。植え付ける前には土を耕しますが、長いもがまっすぐ下へ下へと伸びていくように、土をわずか15㎝ほどの細い幅で、深さ1m50㎝くらいまでを掘り起こして柔らかくします。長いもがまっすぐ伸びるのは管を使っているからと思う方もいますが、それは自然薯の場合で、長いもでは管は使いません。土を細い幅で深く耕すことで、周囲の硬い土のほうには伸びず、まっすぐに下へと成長が促されます。
 4月になって種いもから芽が出ると、つるが地上に急成長していきます。5月には、2mほどの高さのアーチ状のパイプとネットを張り、そこにつるを誘導していきます。ですから、夏の長いも畑は、一面緑の葉で茂った状態になってとても綺麗なんですよ。そこから秋まで追肥や雑草の管理を続け、11月になったら収穫を開始します。
 収穫時の長いもは、1mから1m20㎝ほどの長さになりますから、収穫作業はなかなかの重労働です。大型機械を使って長いものすぐ脇の土を深く掘り起こしながら、その後ろに人が付き、一本一本傷つけないように引き抜いていきます。さらにその後ろに他のスタッフが3~4人続き、掘り残した長いもを丁寧に集めていきます。収穫した長いもは、5度~7度に保たれた倉庫で貯蔵します。低温にして休眠させるため、1年間ほぼ変わらない鮮度を保つことができます。出荷する際には、機械で洗浄し、20㎝ほどの長さに切って袋詰めし、真空パックにします。
 今年は、昨年の気候が良い影響をもたらしたのか、とてもよい出来です。まっすぐに伸びた長いもを収穫するとき、とても充実した気持ちになります。

−先ほど収穫の様子を見せていただき、その迫力に驚きました。

箕輪さん:
 1m以上の深い穴を掘るために機械も大型ですし、その機械のすぐ後ろについて収穫していく作業は、危険も伴います。体力も相当使うため、その作業は僕か弟が担当するようにしています。それでも、以前と比べるとだいぶ機械化が進み、GPSを利用した自動操縦も可能になるなど、だいぶ楽にはなっています。
 長いもは連作ができないため、他の作物をつくりながら畑を回していくのが一般的なのですが、うちの場合は、一定期間ごとに耕作地を交換して連作を避けるやり方を取っています。珍しいケースだと思いますし、農地を他人と共有することを好まない人もいると思いますが、うちにとっては、他の作物を作らなくて済む分、機械をすべて長いもに特化したものに投資することができ、とてもメリットのある方法だと思っています。

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−箕輪さんの今後の夢について教えていただけますか。

箕輪さん:
 さきほどもお話しした通り、「箕輪農園の長いも」のファンを増やしていくことが、僕の夢です。日本国内はもちろんのこと、最近では世界の市場も意識して、台湾で開催された茨城県産食材のフェアや、ニューヨークで開催された寿司チェーン店向けの食材フェアにも参加してきました。長いもは、味にクセがなく、調理法によっていろいろな食感を楽しむことができ、消化を促進させる成分を含むため、日本発のヘルシー食材としてもっともっとアピールできると思うんです。今後は、世界に向けて、茨城県鉾田市産「箕輪農園の長いも」の魅力をさらに発信していけたらと思っています。

【取材録】

取材で訪れたのは、収穫時期の真っただ中。本文中にもあるとおり、その機械の大きさと作業の迫力に圧倒されました。一方、洗浄した長いもの長さを揃えて切り、袋詰めにして真空にする作業は、白く美しい長いもならではの断面に一点の曇りもないよう配慮する細やかさが求められます。父と2人の兄弟だけでなく、2人の社員、4人のベトナムからの研修生からも、大手食材宅配業者の注文に自分たち一社で対応するという責任感と、安全・安心なおいしさを届けるという揺るぎない信念が感じられました。今後の世界市場への挑戦からも、目が離せません。

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