いばらきの生産者

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 言わずと知れた茨城県を代表する特産品のひとつである干し芋。原材料となるさつまいも(かんしょ)の生産量は、鹿児島に次いで茨城県が全国2位を誇り、干し芋の生産量においては、全国のほぼ9割を茨城県産が占めています。かつては、堅い食感の保存食という印象もあった干し芋ですが、とくに近年「紅はるか」という品種が登場してからは、その柔らかでねっとりとした食感、強い甘み、透明感のある美しい黄金色によって、健康的でおいしく食べやすい上質なスイーツとしての人気を獲得しています。
今回ご紹介するおみ農園がある鉾田市は、さつまいもの作付面積・生産量ともに県内1位を誇る地域。農園代表の小見洋市さんとご子息で工場長の陽介さんに、鉾田の風土を生かしてより質の高い干し芋づくりを目指す工夫や、農業を中心に鉾田市のコミュニティを守り活性化を目指す心意気などについて、お話しいただきました。

原料となるさつまいもの良さが、干し芋の品質を決める

−小見さんが干し芋づくりを始めた経緯から教えていただけますか。

小見洋市さん(以下、小見さん):
 元々うちの父親の時代は、グラジオラスなどの花の球根や、トマトジュースの原料用のトマトを栽培していました。私が就農してからは、ハウス栽培のメロンやグリーンアスパラなどを長く手掛けていまして、今から10年ほど前に干し芋加工を始めました。ちょうど「紅はるか」が新品種として登場したころで、同じ時期に外国人事業実習生受け入れ事業が開始されたので、海外の実習生と一緒に干し芋づくりに取り組み始めたんです。その後、テレビ番組の取材を受けた影響などもあり、お陰さまで今は毎年多くの方からご注文をいただけるようになっています。

−おみ農園の規模と栽培・加工の特徴について教えてください。

小見さん:
 干し芋加工用のさつまいもを栽培する畑が300アール、ほかにさつまいもとして出荷する分の畑が400アールあります。育てているのはすべて紅はるかです。
 栽培面での一番こだわりとしては、さつまいもの苗から次の年に向けた種芋を作り、自家増殖した苗を使っているところでしょうか。自分が良く知る土で良いさつまいもをつくり、それを原料にしてこそ、干し芋の加工工程においても高い品質が保てるという信念でつくっています。
ですから、土作りには毎年気を配ります。うちの農園の圃場は30ヶ所あるんですが、隣り合う畑でも、一枚一枚土壌の性質は変わります。毎年土壌診断をして、そのデータをもとに肥料会社の担当者と相談し、足りているものは無理に足さず、足りないものだけを補って、できる限りそれぞれの畑が均一によい状態になるよう心掛けています。それでも、日照や傾斜による水の滞留具合などによって、どうしても差は出てきてしまうのですが。それを最小限に抑え、よい品質のさつまいもを多く収穫できるよう努めています。

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−おみ農園での1年のサイクルはどのようになりますか。

小見さん:
 さつまいもづくりでいうと、3月20日ごろには種芋をハウスに植え付ける準備を始めます。1ヵ月後にはそこから苗が育つので、苗切りをして4月上旬から畑に肥料を振って耕し、畝の表面を黒いマルチシートで覆い、そこに4月末から5月にかけて苗を植え付けます。夏にかけてぐんぐんと苗が生育するのを見届け、9月10日すぎごろから収穫を始めて12月ごろまで行います。
 収穫したさつまいもは、簡易の貯蔵庫にボイラーを使って温度を13度に設定し、約40日間保管してキュアリング処理を行います。10月に入ると、キュアリングを終えたさつまいもを使っていよいよ干し芋づくりを開始します。最盛期には、加工場に10人のスタッフ、パッキングに20人くらいのスタッフをそろえて行っています。
※キュアリングとは収穫後、土がついたまま一定の温度・湿度のもとで保管することで、さつまいもの皮下組織にコルク層ができ、収穫時についた傷が自然治癒すること。 この処理により、病原菌などの侵入を防ぎおいしさを保つ効果が得られる。

干し芋づくりは、ほぼすべての工程が手作業

−干し芋づくりの工程について教えてください。

小見さん:
 干し芋づくりは、ほぼすべての工程が手作業なんです。芋を洗う、蒸し器で蒸す、皮をむく、ピアノ線を張ったスライサーで切る、パレットに並べて干す──工程の中で機械化できているのは唯一乾燥機を使う部分だけです。
 乾燥機だけを使って干し芋を仕上げる農園もあるようですが、うちでは、乾燥機で丸1日水分を飛ばしたあと、必ずハウスの中にパレットを並べて天日干しを行います。ひとつのハウスに150枚ほどのパレットを並べますから、大変手間はかかるのですけれど、干し芋づくりには、やはりミネラル分を含んだ海風に当てることが大切だと思っているんです。その効果を数値化することはなかなか難しいのですが、天日干しを加えることによって独特な香味が出る──そのひと手間をかけることが、うちの干し芋の商品価値になっていると思っています。
 干し芋加工の工程で気を使うのは、異物混入です。以前は、干し芋を並べるパレットが木製で、その上に網を敷いて干し芋を並べて干していましたが、どんなに気を付けていても木くずや網の繊維の付着が、ごく稀ですが起きていた。そのため、数年前からパレットをすべてプラスティック製の抗菌作用があるものに入れ替え、昨シーズンからは網の代わりにクッキングシートを敷くようにしたんです。
 これ、じつは妻のアイデアで、妻の実家が菓子店でクッキングシートを使用していたことにヒントを得て始めたのですが、想像以上に効果がありました。資材代はかかりますが、その分異物混入のリスクをほぼ完全に回避できるようになったので、妻の思いつきに感謝しているところです。

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−今はどの商品が人気ですか。

小見さん:
 うちでは平干しと丸干しと、あとスティックをつくっていますけれど、やはり定番の平干しがいちばん出ますね。丸干しも独特のより柔らかい食感が楽しめて人気があります。
 干し芋は、鉾田市内の直売所、さんて旬菜館、JAなだろうや、東京都銀座のIBARAKI sense(茨城県アンテナショップ)などに出荷しているほか、おみ農園で電話、FAX、メールでの注文を承っています
※農園内での直売は行っていないのでご注意ください。

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東日本大震災で実感したコミュニティにおける自分たちの使命

−ここからは、ご子息の陽介さんに伺います。サラリーマンを辞めて就農されたとのことですが、そのきっかけを教えていただけますか。

小見陽介さん:
 いちばんのきっかけは、じつは東日本大震災なんです。当時僕は高校3年生でした。近所の小学校が避難所になっていて、その時父がPTA会長をやっていたこともあり、加工場に在庫としてあった干しいもを非常食として避難所に運び、そこで皆さんに配ったんですね。夜はまだ寒かったから、加工場で使う薪をトラックで運んで焚き火をして、集まった人たちが暖を取れるようにもして。その後も、地域の人たちに野菜を配ったり、水道が止まっていたので井戸水を汲みだして皆さんに補給したりしました。人々が不測の事態で混乱する中、率先して地域の人たちを少しでも安心させようとする父の姿を見て、ああ、自分たちは、地域に住む人たちの生活やコミュニティを守る立場にいるんだなと実感したんです。だから、僕もそんなふうに、コミュニティを守って広げていくような仕事をしていきたいなと思ったのが、就農を目指したきっかけです。
 ただ、当時から、親や祖父の代からの農業を焼き直すだけでは広がっていかないなと思っていて、それで、違った角度からの視点を得るために大学では経営を学びました。その後は、総合食品商社に就職し、神奈川支店の営業部に勤務しました。農業だけでなく、いろいろな食品に携わり、多様なユーザーやメーカーの方と話す体験をしたいと思ったからです。そこで2年間を過ごした後、鉾田市に戻り、茨城県立農業大学校に通ってさまざまな機器を扱う免許や資格を取得し、急ピッチで農園の作業を覚えて、今は、工場長の役に就いています。なんとか干し芋づくりの一通りのことはできるようになりました。干し芋の皮むきなどは、ベテランの女性陣の速さにまだまだ追いつけないですけれど(笑)。
 これからは、農園の仕事をしっかりとこなしながら、この鉾田市が、全国の自治体の中で農産物の生産量が1位であるということを、もっともっとアピールしていきたいですよね。関東の台所というか、全国の食を支えている地域であるという誇りを、僕みたいな20代・30代の人たちにも持ってもらえるように、何か発信できていけたらいいなと思います。
 僕自身は就農しましたけれど、農家に生まれたから農業をやらなくてはいけない、というふうには考えていません。農業は目的ではなくて、この地域での生活とかコミュニティを良くする手段だと思うんです。だから、農業以外の仕事に就いている人でも、地域に貢献する想いを持っている人たちとは積極的につながって、この街をより魅力ある地域にする活動を起こしていきたいと思っています。

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【取材録】

 取材に応じていただいたのは、干し芋づくりが最盛期を迎えた、12月のある日の早朝でした。毎年繁忙期に加工やパック詰めを手伝われるというパートさんたちが次々と出勤してくる中、代表の小見さんがお一人おひとりに丁寧にかける「おはようございます!」の気持ちのよい声と、それに応えるスタッフの皆さんの輝く笑顔がとても印象に残りました。生まれ育った鉾田を、農業の魅力を伝えることでより活気あふれる地にしたいという小見代表の想いは、おみ農園の日々の中ですでに実践されていることを強く感じながらお話を伺いました。
その想いを受け継ぐご子息の陽介さんが、若い世代ならではの視点から送り込む新鮮な風が、今後農園や鉾田の街づくりにどのような変化をもたらすのかにも、興味は尽きません。

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