いばらきの生産者

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 親子3代に渡り原木しいたけを栽培してきた林しいたけ農園。じっくりと時間をかけて育った原木生しいたけは肉厚で香りも高く、平成21年度原木しいたけ生産者大会において林野庁長官賞を受賞しています。しかしその翌年に東日本大震災があり、そこから7年間も出荷できない状況が続きました。ようやく出荷の許可がおりた頃には、原木しいたけを取りまく状況はこれまでと一変。
 以前は鉾田の山中からナラの木を切り出して、1から10まで自分たちの裁量で仕事を進められましたが、その業態を大きく変えざるを得なくなりました。この問題はしいたけ農園の経営だけでなく、鉾田の山の環境にまで影響を与えています。今では震災前の10分の1にまで縮小してしまった原木しいたけのこと。そして原木しいたけを出荷できなかった期間に新たにはじめたサツマイモ作りについて伺いました。

2011年を境に変わってしまった原木しいたけ事情

−まずは原木しいたけの栽培方法について教えてください。菌床しいたけとはどのような違いがあるのでしょうか。

林さん:
 しいたけの栽培方法には菌床栽培と原木栽培の2種類があります。菌床栽培はオガクズを固めたブロックのようなものにしいたけ菌を植え付けて、終始屋内で作る方法で、菌の植え付けから3ヶ月程度で収穫が可能です。
原木栽培は同じ長さに揃えて切り出した原木に穴を開け、しいたけの菌を植え込んだらまず2年間山の中で寝かせます。そうしてやっとしいたけができる準備が整う、時間のかかる方法です。しかし山の木陰で冷涼な風にさらされながら、ゆっくりと菌が育った原木しいたけは、肉厚でしっかりとした歯応えがあり、香り高いしいたけに育ちます。

 菌を植え付けた原木をほだ木といいます。このほだ木を木立のなかの直射日光が当たらない場所に、「よろい伏せ」という通気性を考えた組み方で寝かせます。しいたけ菌はほだ木を食べながら生長し、2年かけて全体に行き渡り、キノコとして発生できる準備が整います。

 しいたけを発生させるには、ほだ木を一晩水に浸けたあとにハウスの中に三角形に組み上げます。するとしいたけの芽が発生し、1週間ほどで収穫できる大きさにまで生長します。一通り収穫が終わったほだ木は再び山に戻し、今度は立てかけるような組み方で数ヶ月休ませて、再びしいたけを作れるだけの体力を蓄えさせます。一本のほだ木から年に2回、こうしたサイクルを5、6回繰り返し、ほだ木は2年半から3年ほどで役目を終えます。それを考慮し、毎年2年後を見据えて新しいほだ木を準備します。

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−とてつもない時間と手間がかかる仕事ですね。ほだ木は今何本くらい管理されているのですか。

林さん:
 震災前は自分たちで山の木を伐採したり、足りない分を購入したり、毎年2万本の原木を入れ替えていました。しいたけはほとんどナラの原木で作っています。2万本管理していた頃は山桜の原木になめこの菌を植えたり、数種類のしいたけ菌を作り分けたり、幾とおりものやりかたをしていました。しかし震災以降、地元の木は放射能の影響を受けてほだ木として使えなくなってしまい、今はすべて長野県産の原木を購入しています。現在の保有数は2,000本です。

 自分たちで山から切り出せば、かかる経費は1本につき100円程度。購入価格も以前は200円でした。しかし震災以降は新しいほだ木と収穫したしいたけの放射能の計測が必須となり、その数値が国のガイドラインをクリアしないと出荷できなくなりました。
 木についたセシウムは自然に抜けて減るということはないので、いま鉾田の山に生えている木はもう利用することができません。原木の一大産地であった福島の木も当然流通しなくなり、全国的に原木が不足。価格は高騰し、現在は1本440円しています。今はまだ東京電力が1本につき240円負担してくれていますが、そもそもの原木不足の上に補助がつかなくなった時には、現行の2,000本が1,000本になってしまうかもしれません。

−7年間の出荷制限を乗り越えるだけでもたいへんだったでしょうに、それでは今後の見通しもなかなか立ちませんね。

林さん:
 震災前はいろいろな組合があり、鉾田だけでも20人位生産者がいたのですが、今は2軒だけになりました。ガイドラインを守って検査し、クリアなら出荷制限が解除されましたが、それは市町村単位ではなく個人単位で実施されていたので、早めに解除になった人もいれば今だにクリアできない人もいるという状況です。うちの場合は解除まで7年かかりました。よそから原木を仕入れるにしても、価格が以前の倍以上となれば、年配の方はそこまでの経費をかけて続けようとは思えないのも仕方ありません。
 今も原木の供給源は岩手より北、長野より南の山です。原木屋さんによると以前は15年20年経った木を切っていたのに、最近は10数年で切っているので細くなってきているそうです。その原木を供給してくれる業者さんも高齢化してきている。なかなか厳しい状況です。

いいものを作り、きちんと評価してくれる人の手へ

−原木しいたけを出荷できない期間に、サツマイモ作りを始められ、干し芋が好調であると伺いました。

林さん:
 サツマイモは2014年から始めました。解除になる解除になると言われ続け、結局3年経っても解除にならなくて。いつまでも待てない、何かしなくてはという時に、たまたま畑を貸していた農家さんが農業をやめることになり、持っている機械も売るつもりだという話を聞いて、だったら自分が譲り受けてさつまいもをやりますよということになりました。
 それまでは朝から晩までしいたけのことで、畑仕事はほとんどやってきませんでした。掘り上げの際にどうしても折れたりする芋があるので、何かしら使いたいと思い、母親といっしょに干し芋も作るようになりました。最初は知人に配ったり、細々と販売していたのですが、それが思いがけなく評判となり、元々しいたけを卸していた取引先のスーパーが全量買い取ってくれるということで、力を入れるようになりました。

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−品種は何ですか。林さんが作る干し芋の特徴などありましたら教えてください。

林さん:
 主力の品種は紅はるかで、他にシルクスイート、紅あずま、安納芋、紫芋を作っています。作付面積は10町歩で、生鮮出荷が8割、2割が干し芋になります。
 会社員だった友人がよくうちの干し芋を会社の人にあげていたのですが、「おいしい」「また買ってきて」と言われて何度か買いにきているうちに、「農業楽しそうだな、自分も干し芋作りをやりたい」と、退社してうちのスタッフになりました。現在4名のスタッフと研修生が1人。干し芋の時期は近所の方も数名パートとして来てもらっています。
 うちでは11月後半からはじまる干し芋作りのために、9月上旬には芋を掘り上げてハウスに寝かせ、時間をかけて糖化を進めています。甘いだけでなく、見た目がきれいな黄金色をしているのが特長です。
 その時期になるとうちの干し芋を待ち望んでくださるお客様もついて、しいたけの仕事ができなかった期間、サツマイモの畑を受け継いで干し芋作りを始めたことで、経済的にも精神的にも助けられました。

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原木しいたけから考えたい15年後の鉾田

−震災前に木を切り出していた山が荒れてきているとのこと。今後また鉾田の山から木を切り出して、原木しいたけの栽培を盛り返していくことは考えていますか。

林さん:
 以前は紅葉が始まる11月になると下草刈りに山に入り、木が水を吸い上げなくなる12月になると伐採が始まります。この辺りではほだ木のサイズは90cmと決まっていて、倒した木に母がチョークで印をつけて、家族で山の仕事をしていました。
 自分たちは丸太の部分を使いますが、葉のついた枝を欲しがる人もいました。北浦の漁師さんたちです。確かささび漁と言ったかな、木の枝を束ねて水に沈めておき、エビが潜むのを待って捕まえる漁法です。人の手が入ることによって山が整備され、漁師さんも助かっていました。
 しかし、今は山を管理する人が誰もいなくなり、かなり荒れてきています。今生えている木は今後も原木としては活用できません。もしその山をほだ木が取れる山として再生させるなら、まずは今ある木を伐採する必要があります。しいたけに使うナラの木は伐採すると傍から新芽が出てくるので、そこから使える太さに育つまでの15年近く、山の整備を続けながら待たなくてはなりません。一反部の山から原木は700本位しかとれないので、1万本加工するには年間1町3反歩は必要です。
 しかし、今まで木を切り出していた山林は自分の地所ではないので勝手には切れませんし、すでに下草も篠竹になっていて簡単には手がつけられません。それだけの山を切るのはかなり大変なことです。また、地主が代替わりしたり複数になると話も複雑で、とても今からそこに踏み込めるとは思えません。

−では林さんもいずれは原木しいたけの栽培をやめて、サツマイモに専念されるのでしょうか。

林さん:
 いいえ、たとえ規模が縮小しても、なんとか方法を見つけながら、原木しいたけの栽培をやめるつもりはありません。

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【取材録】

 鉾田は朝晩の気温差が大きく、夏でも山の中は湿り気を帯びてひんやりと、原木しいたけの栽培に適した環境なのだとか。かさが分厚くて軸も太い原木しいたけは、旨味があり栄養素も高く、料理しても香りと歯応えの存在感が違います。そうしたしいたけを作るには、収穫までの時間の長さに加え、木の伐採、ほだ木の管理、季節ごとの移し替えなど、これほど重労働を伴う仕事だったとは知りませんでした。
 原木しいたけは農業と林業の複合産物であり、山の保全と密な関係にありました。木を伐採するために下草もきれいに整備され、枝の部分まで無駄なく使い道があり、自然の循環の助けとなっていたのです。
「ぜひとも15年後を見据えて、子どもたちの未来のために、日本の食文化を守るために、山に人の手が入ることを願います」ときれいに締めくくりたいところですが、口で言うほどたやすい問題ではなさそうです。自分は農業にも林業にも漁業にも関わりないと思っているすべての人が、自分たちの環境の問題として、意識を向けなくてはならないことだと思いました。

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