いばらきの生産者

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2018年11月。鉾田市に新たなイチゴ栽培農家が誕生しました。2年間の準備期間を経て、今季初シーズンを迎えた「風早いちご」。取材したのは2019年1月のことで、昼と夜の寒暖差の大きいなか、時間をかけてゆっくりと成長したいちごに一段と味がのってきた時期でした。大粒のとちおとめにかぶりつくと、甘い香りと甘い果汁が口の中いっぱいに溢れます。たとえれば若い白桃でも噛んでいるような、中心部のしっかりと歯ごたえのある食感が新鮮でした。

事業主は風早総一郎さん。国内外で高く評価されるトップクラスのいちごを生産している「村田農園」にて、ご夫婦そろって2年間の研修を経ての独立です。農業とはまったく無縁だった風早夫妻が、どのような経緯でいちごの専門農家となっていったかをお聞きしました。

日本の農業ってどういう感じ?からはじまる人生の一大転機

−千葉県松戸市出身で、都内の飲食店で働いていた風早さん。なぜ農業を始めようと思うに至ったのでしょうか。

風早さん 飲食業時代、社長とよく店で使う食材にもこだわっていきたいねと話しているうちに、自然と野菜や果物に興味を持つようになりました。町の小売店からの仕入れは日によって欠品だったり、品質が不安定だったりします。そうした状況に左右されないためには、直接農場に行って自分たちの目で選ぶのが理想だと話しているうちに、そもそも日本の農業てどういう感じなんだろうと、漠然と疑問に思いはじめ、気になることを調べるようになったのです。

その店にはアボカドを使った人気のメニューがあったのですが、当時の仕入先で扱っていたのはほとんどがメキシコからの輸入品でした。ある時メキシコのストライキの影響でアボカドが入手できずに困ったことがあり、国産のアボカドについて調べるために愛媛まで現地調査に行ったりもしました。その頃にはすでに、いつか自分で農業をやってみたいという気持ちが芽生えていました。

−数ある農作物のなかで、いちごにしようと思われたのはなぜですか? 

風早さん アボカドを始めいくつか興味をもった作物はあったのですが、それぞれについて検討しているうちに、いつしか「もらってうれしいものがいいな」という視点で考えるようになりました。僕自身何をもらったら嬉しいだろう、子どもたちも喜ぶだろうと考えた時に、たどり着いたのがいちごです。食べた人みんなが笑顔になってくれるいちご、いいなと。

そこからいちごについて調べ始まり、実際に各地の農家さんを見て回っている時に、偶然見たテレビで銀座千疋屋さんの特集をしていたんです。それで初めて村田農園さんのことを知り、すぐに尋ねてみました。

−まずは一般の客としていちごを買いに村田農園を訪れた風早さん。その時の印象はいかがでしたか?ここで研修させてもらおうと思った動機はなんだったのでしょう。

風早さん 第一印象は、すごくきれいな農園だと思いました。それまで何軒かのいちご農家をみて歩きましたが、畑以外もすべて土っぽくて、農家っておしゃれしては行ける場所ではないのだと感じていました。また、どの農家も家族経営的な雰囲気が強く感じられて、そこで学びながら働くというイメージが持てなかった。ところが村田さんのところは敷地内が舗装されていて、作業場や倉庫などすべてが無駄なく整頓されていて、ずば抜けてきれいでした。そして誰が来てもウェルカムな雰囲気が伝わってきて、あらゆる点がいい意味で農家っぽくなかった。

いちごもまたそれまで見てきたものとは別物でした。とちおとめは普段からなじみ深い品種ですし、いろいろ食べてきましたが、村田農園に行ったのは4月の頭くらいで最も旬の時期を過ぎていたにも関わらず、香りから、味から、他とはまったく違っていて、これはすごいと思いました。

その時ちょうど作業場に「スタッフ募集」の紙が貼ってあるのが目に入りました。研修生ではなくパートさんの募集だったのですが、とにかくまずは応募して、ここでいちごを始めたいと思いました。

家に帰ってホームページを調べたら、その作りにもまたびっくりです。見た目もセンスの良いしっかりとした作りで、何から何まで違うんだなぁと。そこに「日本人の研修受け入れます」と書かれてあるのを見つけて、翌日に電話しました。

モットーは考えすぎない、頑張りすぎない、ただし、手は抜かない。

−その後すぐに研修に入ったのですか?最初の農業体験はいかがでしたか?

風早さん 翌日村田さんに電話して、「じゃあ一度お話ししましょう」とおっしゃっていただきました。僕としてはもうここで研修させていただくと心に決めていましたので、まずはお会いする前に履歴書を送り、約束の日までに鉾田の物件をある程度押さえて、承諾を得られたらすぐにも転居できるように準備を進めてしまいました。

 初めてお会いした村田さんは、休みもない仕事だよと、農家の大変な面もいろいろ話してくださいました。でもやりたいのなら教えるとおっしゃっていただいたので、お願いしますと即答しました。それから家族で鉾田に引っ越してきて、研修が始まったのが2016年の5月半ばです。

村田さんのところでは6月の第1週まで収穫があるので、研修を始めて最初の2週間、初めての農業体験はイチゴの収穫作業でした。わからないことだらけの自分と1対1で、いちごを摘みながらいろいろと教えていただきました。

それまでは、いちごの仕事はハウスの中だし小さくて軽いし、きっと楽だろうと思っていたのですが、実際にやってみた印象は、とにかく暑かった。想像以上でした。Tシャツも脱ぎたくなるような暑さでしたが、でも太陽を浴びてする仕事っていいなぁとも思いました。

−村田さんから伝授されたいちごの栽培法にはどんな特徴がありますか?

風早さん とにかくよく観察すること。そしていちごの育つ環境をととのえるために手をかけること。特別難しいことをしているわけではないのですが、細かく丁寧に手をかけることを、毎日欠かさず続ける。それが最大の特徴かと思います。最初に教えてもらった収穫作業にしても、一粒一粒をかならず両手で摘み取る。あそこまで神経使って収穫するところも少ないのではないかと思います。

−村田さんのようないちご農家を目指すには今後ずっとそういう生活になるわけですが、精神的に負担には感じませんか?

風早さん ならないですね。手をかければかけたなりの結果が出るということがわかりましたので。ただ、すべてを自分でやろうとするとどうしても時間がかかりすぎるので、たとえば遠隔操作でハウスを開閉させるなど、機械化しても構わないところは取り入れていきたいと思っています。あくまでも人の感覚を補う、省力化という点で。

農業に休みはありませんが、機械化や人手を増やすことで時間を作り出すことは可能です。今でも前職の時に比べれば子どもたちとの時間も十分持てるようになり、家族の距離が縮まった。そこはすごく満足しているところです。

−土に関してはどうでしょう。村田さんのところでは土作りにかなり神経を使っていらっしゃると思いますが、風早さんの畑はいかがですか?

風早さん ここは元々サツマイモ畑だったので、どちらかというと砂っぽいんですね。しかも1年間耕作放棄地になっていた所で、水はけは良いけれど肥料を保つ力のないガリガリな土壌でした。村田さんのところでは動物性と植物性の有機素材を使った特製の堆肥を、毎年大量に土に混ぜ込んでいるのですが、うちでも同じ堆肥を使わせてもらっています。いきなり土の栄養素を上げすぎると問題があるので、状況を見ながら長い目で土壌改良をして行く予定です。

今季初年度ですが、年明けからけっこう立派なイチゴが採れるようになってきて、おかげさまで売り先もだいたい決まっています。それでも村田さんのいちごが100点だとすれば、60点くらいですが。

水耕や高設と比べて、土で作るいちごは味ののり方や香りが格段に違います。植物にとって、やはり土はとても大事です。村田さんと同じ苗を植えたのですが、その成長の度合いには明らかに違いが出ています。村田さんのところは30年かけて作られたしっかりとした土なので、木(苗の中心部)も太く、立派ないちごができるのですが、うちのは小さくて弱いので、大きないちごができても途中で木が疲れてしまったり、最後の味がのせられなかったりというのがあります。管理の仕方も関係あるでしょうが、やはり一番大きいのは土の力だと思います。

鉾田で農業ができることに感謝、その恩を返していきたい

−現在の作付面積はどのくらいですか?

風早さん 今は65mのハウスが6棟で、2反歩(20a)ほどです。しばらくはこの規模で確実に経営実績を残し、3年後くらいから研修生を迎えて作付面積を倍に増やしていこうと計画しています。そのための用地は当初から押さえてあります。

−出身地に帰ることなく鉾田で土地を探したのですね。鉾田で農家をすることにはどのようなメリットがありますか?

風早さん 市町村別農業産出額が全国2位という一大農業圏だけあって、まずは地の利がある。関東ローム層の土質は作物を作りやすく、地下水も豊富で、うちでも井戸を掘って潅水や夜間保温のためのウォーターカーテンに利用しています。また必要な資材が手に入りやすく、情報が豊富で、行政の協力体制も整っているといった利便性に加え、生産者にとっての縛りが少ない、自由度の高い農業がしやすい土地柄ではないかと感じています。

ただ、こうした恵まれた環境で多くの優れた作物が採れているにも関わらず、鉾田という地名はあまりにも知られていません。僕も隣の県の出身なのに、今まで知りませんでした。初めて見る人には読み方も難しい「鉾田」というワードをもっと多くの方に知ってもらいたいと思い、出荷用の箱にはローマ字で「HOKOTA」と入れてもらうことを希望しました。

−「風」を表す軽やかなロゴマークとコーポレートカラーの「青」が効いた、オリジナリティあふれる出荷箱ですね。

風早さん 村田さんのところで販促物やホームページの制作を依頼している、時の広告社さんにお願いしました。農業を始めた当初からブランドとして確立できるいちごづくりを目指していて、そこだけは方向性を変えたくないと思っているので、そのためにはこうしたイメージづくりも必要だと思っています。バイヤーさんからもデザインの良さをとても高く評価していただいています。思ったよりも立派ないちごがなってくれたこともあり、すでに豊洲市場や銀座千疋屋さんでもお取り扱いいただいているのですが、それにはデザインの力による効果もあると思っています。

最初からブランディングすることによって、良いものを作り続けなくてはならない状況を作る。自分に言い訳ができないようにする。そんな逆の効果もあると思います。それが最初にお話しした、「もらってうれしいもの」をつくるという目標にも繋がっています。

日本の農業どんな感じ?から始まった就農活動でしたが、今はどんな感じで見ていますか?

風早さん 多くの専業農家がそうであるように、外国人研修生の人たちの力を借りなければ、今後僕も規模を拡大できないわけですが、日本人でもっとやりたい人が増えて欲しいという思いがあります。そのためには今までとは違う農業の魅力を見せていかないと、いつまでも関心をもってもらえないのではないか。ロゴや箱のデザインをお願いしたのはそういう思いもあったからです。かつて自分もそういう風に見ていましたが、きついとか汚いという農業に対する固定観念を変えていきたい。実際にやってみたら自己裁量でできる仕事がとても楽しいです。日本の特に若い方達にもっと農業に関心をもってもらえるよう、僕が感じている楽しさや自由さを広めていきたいです。

【取材録】

村田農園で修行できたことは幸運であったと同時に、今後果たしていくべき責任も大きいことでしょう。それをしっかりと自覚され、常にトップクラスの品質を目指し、若者に夢を抱かせる存在となっていく覚悟を感じる取材でした。女性や子どもに人気のいちごはイラストやキャラクターのモチーフなどにも多く使われ、カワイイというイメージが定着しています。でも「風早いちご」はしっかりとした歯ごたえとコーポレートカラーのクールなブルーのせいもあって、ちょっと男前な印象。いちごの世界に「ハンサムないちご」という新しい扉が開かれた気がしました。(山辺吉子)

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