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HOMESPECIAL > 直接販売で風評被害を乗り越える

 「地元の顔が見える人が作ったから、安心して買ってくれました」と、震災後、原子力事故のによる風評被害をものともせず、直売所は多くの人でにぎわいを見せたと、かつ江さんは話します。中間の取り次ぎなどを通さない直売所での販売は、販売価格が維持され、風評に負けない現実を物語っています。(写真=夫唱婦随で農業に励む塚本伸さん、かつ江さん夫妻)

仲卸を通さないスタイル

 これまでの取材を通じて生産農家や関係者の口からは「仲卸が風評被害に乗って、茨城野菜の価格を下げている」という言葉を聞きました。JAなど大きな組織であれば、国や東京電力へ補償を求めることもできるでしょうが、零細、個人の生産農家にとっては死活問題となり、農業離れに拍車をかけることにもなりかねません。
 かつ江さんは直売所中心の野菜栽培を続け、それで余ったものは市場へ出荷するというスタイルを通してきました。その姿勢が今回の風評被害を軽々と乗り越えていたのです。

妻はレタス、夫はゴボウ

 かつ江さんは旧小川町の農家から、塚本さん宅へ嫁いできました。「親には洋裁の学校を出してもらったのですが、その道に進むことなく、農家の嫁にきちゃいました」と屈託なく話します。元々農家とあって農業には抵抗がなく、さらに「野菜好き」とあって、年間を通してさまざまな野菜を作り続けています。水戸近郊では珍しいレタスも手掛け、新鮮野菜をせっせと直売所へ運んでいます。
 朝4時半から始まる収穫作業、朝食後、5カ所の直売所へ野菜を届け、帰宅後は畑の草取りやレタスのラップ掛けという日課は、見事なアグリレディーぶりです。
 地域交流にも積極的に参加し、学校給食の現場へ行ったり、みそ、らっきょ、カリカリ梅などの加工品作りにも参加し、食生活改善グループでも活躍。近くの保育園のほ場を耕してあげるなどその行動力は驚くばかりです。塚本さん宅が出荷している茨城町の中央園芸ではキャベツで農水大臣賞を受賞しました。
 一方の夫・伸さんはゴボウ一筋。「親からお金を取るなら土もの」と言われ、ゴボウ生産に取り組みました。県内でも数台しかないという大型のトレンチャー、バックホーン、ハーベスターなどを所有。本人は「機械が大好きなんで…」と笑いますが、深く掘り下げる必要のあるゴボウ栽培には欠かせない機材です。
 しかも、土壌や衛生管理を徹底するGAPも取得し、ゴボウ栽培に対する揺るぎない自信をうかがわせます。

優しさの視線は自然に向けても

 かつ江さんが丹精込めて作る畑を見せていただきました。自宅からほど近い畑にはレタス、キャベツをはじめトマト、スイカ、カボチャ、トウモロコシなどさまざまな野菜がすくすくと育っていました。
 通年を通して直売所に多くの種類を届けたいとの思いのこもった畑です。多品種で豊かな実りを感じさせる野菜畑の見本市のようです。
 その畑の中に一本の枝が伸び、小さなバケツのような容器がつり下げられていました。「ハニートラップっていうんです」と伸さん。これは中に仕掛けた小さなゴム状の集虫剤に虫が吸い寄せられ、下にためてある水に落ちる仕組みの装置でした。
 「殺虫剤などの農薬は使いたくないんで…」と、伸さん。半径200メートル以内の虫を集めるそうです。驚くばかりの装置ですが、伸さんは「これで虫を一網打尽にしてしまうんですが、虫にも生きる役割があるんです。生態系を崩してしまっているのかもしれません」と話します。
 自然と向き合って生きる農業人のまなざしは、透明で優しさに満ちあふれていました。

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