「シャキシャキ」な食感が一般的な白菜ですが、八千代町で栽培される「とろとろ白菜」は、その名の通り、火を通すことで生まれるとろけるような食感が特徴。 そのおいしさは、生産者の的確な品種選びと、手間を惜しまぬ誠実な姿勢から生まれていました。 今回は、おいしい「とろとろ白菜」が作られる裏側に迫ります。 生産者である茨八グループの久保谷さん(久保谷農園代表)と、農産物市場経験30年のプロ フェッショナルとして販売戦略・ブランディング・栽培技術指導などを担当した農業革命株式会社代表取締役の石橋さんにお話を伺いました。
おいしさ重視タイプな品種「新理想」
—とろとろ白菜は、特別な品種から生まれているのでしょうか?
久保谷さん:とろとろ白菜に使われている品種は、新理想というものです。種を買えば、農家でなくても作ることができます。 ただ、病気に非常に弱く、肥料による影響もシビア。さらに、台風が来たら倒れたり傷んだりと大きな被害を受けてしまう。おいしいけれど、農業として歩留まりを考えると、なかなか作りづらい品種ですね。
—一般的な白菜と、どう違うのでしょうか?
久保谷さん:柔らかさが最大の特徴で、加熱すると甘くなり、そしてさらに柔らかくなります。火が通りやすく、調理時間が短いのも特徴ですね。それが、「初笑」「黄づつみ」といった、現在多く栽培されている他の品種との大きな違いです。

—「新理想」は、お店にはあまり並ばないのでしょうか?
石橋さん:新理想は、柔らかくておいしく、1990年ごろはご家庭でも愛されていました。しかし、当時の白菜の主要な需要先であった漬物業界からは、漬物加工に適した、葉や茎にしっかりした硬さのある白菜が求められていました。 さらに、供給の安定化も、生産者にとっては重要事項。農家側には、病気や天候の変化に強く、少ない手間でたくさん作れる品種を選ばなくてはいけない、という事情もあったと思います。 そんな背景もあり、新理想は徐々に市場から姿を消してゆきました。
—農家の方々は、新理想をどう評価しているのでしょうか。
久保谷さん:まさに、「おいしさ全振りタイプ」というイメージですね。 おいしさという「最強の剣」を持つ一方、自分を守る「盾」が弱い、という作物。それでも、「白菜の中では新理想が一番おいしい」ということは、白菜日本一の産地、八千代町の農家の間でも、広く知られています。 なので、自分たちで食べる家庭菜園用として新理想を栽培していることも多いですね。
—出荷用ではなく、自宅用として作っているんですね。
久保谷さん:私の家でも、庭先で自家消費用として新理想を栽培していました。おいしさはすでに理解していましたし、火を通すことで甘く柔らかくなることも知っていました。 自分としては、こちらがいつも食べている「ふつうの白菜」ですね。 ただ、一般的な白菜と比べると、病気や天候の変化、土壌の栄養状態の影響を受けやすく栽培が難しいので、出荷用としては作りづらい。 このおいしさを世に出すには、どうしたらいいんだろう?そう考えていたところに出会ったのが、石橋さんです。石橋さんと協力しながら、栽培と販路開拓、販売を実現しました。
「目の届く範囲」で弱点を徹底フォローする育て方
—新理想でとろとろ白菜を作るために、まず何からスタートするのでしょうか?
久保谷さん:まず種の選び方からです。新理想の中にもいくつかの系統があります。私たちが使っているのは、その中でも、多品種との掛け合わせが無い、純粋な新理想の種を選んで使用しています。
—育苗にも気を遣うのでしょうか?
久保谷さん:元気に育ってほしいと思い肥料を入れすぎると、すぐに腐ってしまいます。もちろん、その逆でもおいしく育たない。 なので、最初は少なめに肥料を入れて、生育状態を見ながら、途中で少しずつ追肥をして調整しています。また、病気予防のための消毒も重要です。とはいえ、量も最小限に押さえたい。そもそも病気に弱い品種なので、慎重に量を調整しながら散布を行います。
—病気の予防以外にも、何か特別な技術があるのでしょうか。
久保谷さん:リン酸を水に溶かして与えることで、爆発的な成長を抑えています。リン酸は葉を厚くする作用があり、食味も良くなります。成長が早すぎる場合は、すぐに成長を抑える対応をしています。もちろん、リン酸の濃度や散布量も気を付けないといけません。 一気に成長してしまうと、収穫や出荷のタイミングにも影響が出て、最高の状態でお客様にお届けすることができなくなってしまいます。こちらも、なかなか気を遣う作業ですね。
—常に目をかけ続けないと、おいしく育てられないのですね。
久保谷さん:茨八グループでは、八千代町内に限らずいろいろな場所に畑を借りています。ですが新理想の栽培では、なるべく八千代町内で、なおかつ私たちの日常的な移動範囲内の畑だけに留めて栽培しています。 おいしさは間違いないですが、丁寧に手をかけてやらないと、あっという間に状態が悪化してしまう新理想。だからこそ、物理的に目が届くし手も届く範囲でしか作れないですね。
八千代の寒さは、甘さに「ちょうどいい」気候
—育った白菜は、どのように収穫されるのでしょうか。
久保谷さん:9月から10月ごろに植えた新理想は、11月から年内にかけて収穫が行われます。白菜が収穫を待ちながら畑で冬を過ごすときには、外葉を頭の方に持ち上げてひもで縛っています。 こうすることで、白菜を霜から守り、長持ちさせられます。出荷のタイミングが来たら順次収穫し、箱詰めしていきます。 私たちの白菜の圃場面積は、全部で25ヘクタール。そのうち10ヘクタールでとろとろ白菜になる新理想が育てられています。この面積に育つ白菜を1つ1つひもで縛るのはなかなかの重労働ですが、甘さととろとろな食感を作るうえでも欠かせない作業ですね。
—八千代町といえば、白菜日本一の街。この風土も、白菜栽培に利点があるのでしょうか。
久保谷さん:寒すぎない気候が、白菜作りに適していると思います。 八千代町の冬は、朝は寒さで葉が凍っても、日中は気温が上がり溶けていきます。雨も少なく、風が吹いて乾燥する。この気候だからこそ、しっかりと結球した白菜が、冬の間でも新鮮な状態で畑の上で「収穫待ち」状態でいられます。
—鮮度だけでなく甘さにも関係しているのでしょうか。
久保谷さん:そうなんです。白菜は、芯の部分に「生長点」という葉の成長を促す中心組織があります。生長点が凍るとかれてしまうため、寒さが厳しくなると、自らを守るために生長点に栄養や糖分を集めていきます。 すると、白菜自体も非常に甘くなります。 八千代町の気候は、結球してから収穫までの間の、栄養や糖分を集める期間を長くできる。そこに新理想というおいしさ重視な品種を用いることで、甘くておいしい「とろとろ白菜」を作ることができます。 他の地域でも白菜は作られていますが、冬場に一日中地面が凍ってしまうような場所では、八千代町のような作り方は難しいかもしれませんね。

いつもの食卓に「とろとろな食感」をお届け
—従来の白菜とはちがう「とろとろ白菜」。消費者にはどんな価値を届けられますか?
石橋さん:従来の白菜に加えて新たな特徴のある作物が店頭にラインナップされるため、消費者にとっては、普段の食卓の、新たな選択肢になると思います。 これまで、白菜の販売には、カットサイズ別の販売が中心で、「種類を選ぶ」という発想が無かったのではないでしょうか。 そこに新たな「とろとろ白菜」が追加されたことで、サイズだけではない選ぶ楽しさが生まれ、消費 者の食卓がより豊かになるはずです。価格は1〜2割ほど高めですが、そのおいしさを考えると、気軽に選んでいただける範囲内だと思います。
—とろとろ白菜の、おすすめの食べ方はありますか?
久保谷さん:とろとろ白菜の水分だけで作る、無水白菜シチューがおススメです。白菜のうまみが溶け出しますし、おいしくたくさん食べられるので、野菜不足な方は、この料理でどんどん食べてほしいですね。 また、柔らかい品種のため、一般的な白菜よりも火の通りが早く、調理時間を短縮できます。忙しい平日の夕食作りにも便利です。
葉が柔らかいので、生でもおいしく召し上がれます。刻んでサラダにすると、一般的な白菜よりもみずみずしい味わいをお楽しみいただけます。 「とろとろ」を白菜の新定番に
—今後の展開について教えてください。
久保谷さん:新理想は、手間はかかりますが、その分、おいしさには絶対の自信があります。これからも、丁寧に栽培を続け、お客様に最高の状態でお届けしたいと思っています。 石橋さんと協力しながら、安定した供給を実現できるよう、腰を据えて取り組んでいきたいですね。
石橋さん:とろとろ白菜は、今では多くの店舗で定番商品として扱っていただけるようになりました。消費者の方からも「おいしい」というお声をいただいています。 生産者が手間暇かけて作ったものを、適正な価格で消費者にお届けする。その好循環を、これからも続けていきたいと思います。
久保谷さん:おいしく召し上がっていただけることが、何よりもうれしいですね。

茨八グループで青梗菜などを育てる秋葉さん(右)と農業革命の石橋さん(左)
■とろとろ白菜 特設ページ
【取材録】
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