COLUMN 02 いばらき野菜地図

HOMECOLUMNCOLUMN02 > 浮島だいこん

ここでしか作れないだいこんがあります。

 現在の稲敷市・浮島地区(旧:桜川村)で、現在30軒ほどで作られている浮島だいこん。赤ねぎ、貝地タカナとともに、茨城県の伝統野菜のひとつです。とはいってもほとんどが自家消費で、流通にのることはありません。葉は青首だいこんの葉に比べて黄味が強く、やわらかな色合いが畑をふわりと覆います。根の上部はすらりと細く、下ぶくれ。果肉はやわらかいので、漬けものなどに最適で、独特の甘みとやわらかさが際立ちます。その反面、煮物にはあまり向かず、さらには下ぶくれの形ゆえに抜きにくいこともあり、徐々に現在主流の青首だいこんに変わり、生産する農家も減ってきてしまったという背景があります。

 浮島だいこんは、明治時代から作られていたといわれ、かつては霞ケ浦を渡って鹿島や千葉県の佐原まで届けていました。近隣には蓮田や田んぼが広がるこの地域。この地域でしか浮島だいこんは作れません。ほかでもこの味を作りたいと、他の地域で種を蒔いてみたものの、いわゆる浮島だいこんの形にはならなかったそうです。ここ浮島地区でも、種を蒔いても、完全な浮島だいこんの形にならないものもあります。というのも、だいこんが属するアブラナ科は、ほかの種類と交雑しやすい。同じ種を蒔いた畑のなかでも、青首だいこんの特徴が出るものがあるほどです。

 種は、浮島だいこんの特徴が顕著なものを選んで畑の端に植えかえておき、春になり種ができたら採取。この瞬間「浮島だいこんは在来種だったのだ」と当り前のことに気づくのです。というのも、現在出回る野菜の多くは、F1種といい、種は一代しか持ちません。実がなったものから種を採取して翌年蒔いても同じものは育ちません。種を作って蒔いて、実り、また種を採るという循環は、在来種だからできることなのです。

 生産者の宮本さんとお話をしていて、ハッとさせられた瞬間がありました。勝手な解釈で生産者の方々は“意図的に守り続けている”のだと思っていましたが、現実はその逆。宮本さんが「最近の青首だいこんも、やっと浮島だいこんみたいにおいしくなってきたわね」とおっしゃる。宮本さんにとっては、浮島だいこん=だいこんなのです。そして「おいしいから作るだけよ」とも続きます。伝統野菜にふさわしき野菜だと、だいこんを前にひれ伏したくなりました。

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