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HOMESPECIAL > 満を持して。水戸の梅「ふくゆい」

 まだ寒気の残る早春に100種類もの梅が咲き誇る偕楽園は、「梅の都」水戸市の象徴です。しかしそのイメージとは裏腹に、食用の梅の実の流通は少なく、土産物の店先に並ぶさまざまな梅の製品は、そのほとんどが県外産を原料として作られてきました。水戸の観光や食文化の観点から、これからは観るだけでなく食べる方も、生粋の水戸産を楽しんでいただきたい。そうした思いから2012年に始動した梅の産地化事業が、5年の準備期間をかけ、2017年6月いよいよ初出荷の日を迎えました。
 水戸で採れた水戸乃梅、その名は「ふくゆい」。生産者のお一人であり、梅干しなどの加工を手がける老舗漬物業、株式会社根本漬物代表の根本大濤(ねもとだいとう)社長を訪問し、食べる梅のブランド化についてお話をうかがいました。

なぜ食べる梅がなかったのか

 あらゆる農産物が豊富に採れる地域性でありながら、そして市内にはたくさんの梅の木がありながら、なぜ水戸市では商品としての梅の実が流通してこなかったのか。その謎を解く鍵は、弘道館公園内にある「種梅記碑」に記されているそうです。
 冬の寒さに耐え、春に先駆けて咲く梅を愛していた水戸藩第9代藩主徳川斉昭公。しかし当時の水戸藩領内には梅の木が少なかったため、江戸から実を送り、偕楽園、弘道館など、領内にたくさんの木を植えさせました。梅の実は保存食として戦時下にも役立ち、薬効にも優れていることから、近郊や士民の家にも植えることを推奨し、各家庭の庭先にまで2本3本と普及したので、自家消費には十分に足りていた。つまり梅の木が多いが故に商品としての需要が発生しなかったという、水戸ならではの理由がありました。

観ても食べても楽しめる水戸の梅へ

 時は移り、偕楽園が観光地として名を馳せ、春先には多くの観梅客をお迎えするようになりました。長年の懸案だった食べる梅について、いよいよ本格的に乗り出した水戸市の、これからは観る梅だけでなく、食べる梅も水戸産にしていこうという呼びかけに、JA水戸、地元の食品製造業者などが賛同し、官民連携で「水戸の梅産地づくり協議会」が発足されました。
 まずは「樹体ジョイント仕立て」で成果を上げている神奈川県農業技術センターへの視察を行い、生産者有志がその効率的な栽培技術を取り入れて、梅の生産に励んできました。事業開始当初は12人の生産者で計0.3㌶だった栽培面積が、2016年には生産者はほぼ倍増、面積は計2.2㌶を超え、1.8㌧の収穫がありました。

新しい栽培技術で生産方法を画一化

 梅の樹体のジョイント仕立てとは、1.5〜2m間隔に列植した梅の苗木を、親指ほどの太さの時に90度に折り曲げ、その先端を隣の樹に接ぎ木して、地面と平行に一直線に仕立てていくという栽培方法。樹高は2mに抑えられるので作業効率が良く、3年目には結実が始まり、4年目には本格的な収穫が期待できます。
 1本立ちの梅の樹に比べコンパクトな樹形であるため、①危険な高所作業がなく、高齢者や女性でも無理なく管理できる。②動線が直線なので作業効率が良く、剪定は通常の約3割、収穫は通常の約5割、時間短縮できる。③薬剤散布量を通常の約3割削減できる。などのメリットがあります。

梅生産者の取り組み/根本漬物の場合

 根本漬物は水戸の老舗漬物業。自社専用の梅の圃場を有し、50年以上水戸産梅干しを作っています。今年の収穫が始まったばかりの畑にて、根本大濤社長にお話をうかがいました。

根本社長 当社ではこれまでも自社栽培の梅や、落札した偕楽園の梅を用いて、水戸市産の梅として特化した梅干しを販売してきました。しかし収量に限りがあり、全体から見るとその割合はごくわずか。梅の産地化を推進することに大いに賛同し、視察後に自社圃場の50年以上経つ梅の木をすべて掘り起こして、全面的にジョイント仕立てに変更しました。品種は大粒の白加賀がメインで、受粉樹として小梅や南高梅などを混ぜて植栽してあります。
 今年は天候のせいか梅の生育が芳しくないと言われていますが、見てください、この立派な実を。梅のお尻が桃のようにまん丸で、なりづる(※)のところが深く、大粒で良質な実がびっしりとなっています。当社ではふっくらとした梅干しを作るため、少し赤みがさすくらいまで樹上完熟させてから収穫し、今年から商品ラベルにふくゆいの名を付けて販売を始めます。まずはその名のイメージにふさわしく、日本の伝統食としての尊厳を伝えるような、昔ながらの梅干しにしてお披露目したいと考えています。(※実と枝がつながる部分・なり口)

食べる梅のブランド化

 収穫量の多い梅の木の栽培法に取り組んで5年。待望の水戸産の梅が誕生しました。「ふくゆい」という名称には、人々に福を結びつけたいという意味が込められ、梅の花と水引をモチーフにしたマークは吉兆の訪れをコンセプトにデザインされています。
 2016年に収穫された梅は既に梅酒などに加工され、「ふくゆい」ブランドの商品化が進んでいます。梅干し、梅酒、梅のお菓子など、加工・販売業者からの需要が見込まれ、今後は上質な梅の生産拡大と安定供給が課題。環境に優しく、高品質な梅を目指し、梅の生産者のエコファーマー取得を進めているところでもあります。「ふくゆい」のブランド化が水戸の産業、観光、地域ブランド力の発展に、大きな効果をもたらすことが期待されています。

 

【取材録】

 旅先で求めたお土産の、何気なく見た裏のラベルに思いもしなかった原産地名を見つけてがっかりした覚えがあります。それ以来、必ず確認するようになりました。旅ゆけば、その土地のものに出会いたいのが人の常。私は水戸の人間ですから、訪ねてこられた方に「水戸の梅を使ったお土産はどこにあるの?」と聞かれた時に、あれもこれもと、すぐには答えられないもどかしさを感じてもいました。
 食はエンターテイメント。水戸ならではの梅の歴史に立脚した「ふくゆい」の登場には、地域の向上にダイレクトに結びつく大きな可能性が感じられます。生産量を増やしつつ5年後、10年後、さまざまな製品となって店の棚を飾り、馥郁たる香り、爽やかな味わいとともに、水戸の地に思いを馳せてもらえる逸品が揃ったらどんなに素晴らしいでしょう。丸々とした立派な梅がたくさんの福に結びつき、名実ともに揺るぎない「梅の都」への追い風となりますように。

■株式会社 根本漬物
茨城県水戸市渡里町1800
029-221-6153
http://www.nemotuke.com

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