COLUMN 01 未来農業報告書

HOMECOLUMNCOLUMN01 > 茨城県でIターン就農 目指すのは「女性だけで働く農園」

城里町にある「まつかげ農園」で働いているのは、代表からパートさんまで全員「女性」です。代表を務める中山祐美加さん(写真・右)は、東京生まれ神奈川育ち。日本農業実践学園で1年学んだ後、群馬県の農業法人で3年間勤務し、城里町で独立しました。現在は「いいものができることが一番の喜び」と話し、おいしい野菜を作ることに情熱を注いでいます。一緒に働く大浦かおりさん(写真・左)は、中山さんの高校時代の同級生。中山さんの研修先で農業体験をした後、農業の魅力にハマりました。「女性ならではの”きめ細かさ”が強み」と言う彼女は、デザイン性にこだわりを持ち、採れた野菜に新たな価値を付加しています。
彼女たちが目指すのは「女性だけで働く農園」。野菜の購入者は女性が多いことに目を向けて、女性だからできる、女性のための農園を作り上げようとしています。

女性だけでつくる、女性のための農園

−栽培品目を教えてください。

中山さん メインで栽培しているのが、ほうれん草、小松菜、生姜。他にも、ズッキーニ、ネギ、とうもろこし、枝豆、ミニトマト、オクラ、さつまいもなどを栽培しています。ほうれん草の栽培ではエコファーマーに認定されました。小松菜は、農薬を葉っぱにかけていないのが栽培の特徴ですね。なるべく農薬を使わないように、減農薬栽培を心がけています。そのせいか、えぐみが少なくておいしいとお客様に好評です。

−まつかげ農園の目指す、「女性だけで働く農園」についてお聞かせください。

中山さん 農業は「男の人がやるものだ」というイメージが強いですよね。だから、女性が「農業をやりたい」と思っても、その先入観があるからなかなか前へ進めない。けれど、今は女性が活躍する社会になってきていて、「農業も女性ができる分野だよ」ということを、もっと知って欲しいです。
私たちは「自分のやりたい農業」を持っている女性たちを集まり、働ける農園を目指しています。いざ農業を始めようと思っても、最初は何もわからなくて、悩むだけ悩んで結局辞めてしまう人が多いから、「だったら好きな分野だけやろうよ!」というのが、私の考えですね。
私だったら野菜を作ることは本当に好きだけれど、販売はあまり好きじゃないんです。作って「おいしいね」って言われることが、いいものができることが、一番の喜びです。でも、大浦さんはそうじゃない。いいものができたのだったら、いろんな人に見て欲しいし、自分たちのものは価値があるんだから、高く売りたいって考えているみたい。

大浦さん 例えば、小松菜の長さを程よく調整して、なるべく見栄えがいいように袋詰めしたり、シールや袋などにデザイン性を持たせたりとか。

中山さん ナスは5本もいらなくて、ピーマンがちょっと欲しい。そんな要望に応えて、野菜をミックスした、「ピーマンナスセット」を出したり、色の違うトマトを詰め合わせて「トマトカラフルセット」にしたり。今までの農業じゃなくて、女性ならではの目線を参考にしていますね。どういうものを買いたいかとか、どういうものが欲しいかに着目して、女性が欲しいと思うものを作っていきたいです。

就農のきっかけ

−なぜ農業を始めようと思ったのですか?

中山さん 農業を始めようと思ったきっかけは、中学校の社会科の授業で、農業は後継者不足と知ったから。「それなら私がやろう」と思いました。学生時代は都会に住んでいて、楽しいことをするっていう意味では、すごく環境はよかったけれど、仕事をして自分で食べていくという環境なら、農業が自分の性格には合っていますね。イメージ的に OLがすごく嫌だったんですよ。人から見られることに対してすごく気配りをしなきゃいけない。通勤を毎日しなくちゃいけない、休みは土日祝日って普通のサラリーマンだったら決まってしまっている。そういう縛られた環境が自分には合わなかったんです。

大浦さん 私は、中山さんの研修先に遊びに行った時に、農業体験をしてハマりました。それから、そこの社長がバイトで雇ってくれると言ってくれて。中山さんが「半年位やって独立する」と言うので、「じゃあ、私もついて行く」って。

−農業を始めるにあたって、大事なことは何でしょうか?

中山さん 住環境は大事ですよね。うちは本当に恵まれてます。いいタイミングで、家の周りの畑が空いたので。

大浦さん 大家さんに家と畑を一緒に借りたんですよ。畑をやっていたら「うちのも借りてよ」って周りの人が言ってくれて。私たちも真面目にやっていたから(笑)。「あの子たちならやってくれるかな」みたいな感じでした。

中山さん 農業法人の社員だった時、土日は城里町の家の近くで畑をやっていたんですけれど、そうしたら「どこの子?」みたいに顔が知れて。「研修してこれから農業をやりたいんです」って言ったら、近所の人と仲良くなって、それがどんどん広がっていって。

大浦さん 理想的でした。ラッキーでしたね、地域的に。いい人ばっかりだったから。

中山さん それと、意外に農業はコミュニケーションが大事です。人と喋ることが嫌いで自然の中で働きたいという人が、インターンシップでよく来ます。そういう人は従業員としてやっていくにはいいけれど、独立したいとなれば、バイヤーの人から作った野菜を気に入ってもらえるうように、アピールする能力が必要になってきます。「この人から買いたい」と思われることが大事で。結局人間と人間のやる商売ですから。

大浦さん 他にも、大工仕事をやったり水道管を井戸から引いたり。ビニールハウスも自分たちで作って。農業には、いろんなスキルが必要ですね。

−農業をやっていて「良かったな」と感じる瞬間は?

大浦さん 採れたての野菜はめっちゃおいしいです。感動します。自分たちで作って食べて、本当に贅沢ですね。採った瞬間に食べるとか幸せ。

中山さん 食べたことのない味に遭遇しますよね。味の違いが一番わかるのは、枝豆ととうもろこし。すぐ味が落ちる作物なので。収穫してすぐに生のままで食べてしまいます。

大浦さん 他には、お店で買ってくれたお客様に「この間食べておいしかったよ」とか言われた時は、嬉しいですね。こちらから「小松菜を漬物にするとおいしいんですよ」と勧めると「そうなんですか」と買ってくださった時なども。

中山さん 自分たちで一から、土作りからやっているので大変な部分もかなりありますが、その中で素晴らしいものができた時の達成感。これはたまらないですね。

−農業をやっていて辛いことはありますか?

中山さん 天気によって作業が被ると辛いですね。私たちは、毎日お金が取れるように一年のうちに300日くらい出荷することを目指しているんです。だから、失敗した時のために、量を多めに作っているのですが、そうすると作物のスケジュールが被ってしまう場合があって。自分たちの首を絞めることに……。せっかく作ったのだから収穫したいし。そうすると、もうわちゃわちゃして。

城里町での移住生活

−お二人とも茨城県外からの移住者になりますが、城里町は住んでみてどうですか?

大浦さん 私はすごく気に入ってます、城里町。田舎にすごく憧れていたから。私も東京出身で、おばあちゃんの家も神戸だったので、都会ばかりで田舎の親戚が全くいませんでした。城里町は、思い描いていた田舎のイメージそのままでしたね。

中山さん 私たちの住んでいるところは、ショッピングモールも近いし、役場も10分で行けるから、意外と便利ですね。

−空いた時間はどのように過ごしていますか?

中山さん 温泉にはよく行きますね。あとは、ショッピングやジムにも行きますね。

大浦さん 腰とか身体のメンテナンス的な。農業って、意外と体は動かさないんですよね。収穫の時もずーっと座っているから、腰が痛くなる。それで、ジムで身体を動かして、腰を伸ばして。

中山さん 農作業は、暑いから汗をかくけど、動かない。走ったりはしない。運動はしないですからね。

まつかげ農園の未来

−今後の展望をお聞かせください。

中山さん 女性だと、「虫が嫌だ」「機械を使うのが怖い」「私はトマトだけがいい……」など、それぞれの要望があると思います。それらをみんなで一緒にやることで、叶えていきたいです。トマトがやりたい人はトマト部門、加工がやりたい人は加工部門に。営業がやりたいと思う人は営業を。最終的には観光農園とかも。スタッフのやりたい分野を尊重してあげたいですね。それで収益が見込めればOKですね。

−最後に、農業をやってみたいという女性に一言お願いします。

中山さん 農業をやりたいんだったら、まずは一回やってみましょう! 考えて迷っているんだったら、自分に合っているかどうかを体験して確かめて、それから計画的にやった方がいいですね。どういう作物を作って、どれくらい売上を得て、どれくらい経費がかかって、収入はどれくらいという計画をきちんとしないと、絶対に失敗しますね。ただ、何となく始めてはダメです。だから、まずは体験してみるのがいいと思います。考えてばかりでも前に進まないので、一歩前に足を踏み出すことが大事です。

大浦さん スタッフも募集していますので、もし書けるのであれば「女性スタッフ募集中」と書いてください(笑)。

 

【取材録】

住み慣れた故郷を離れ、農業で独立。これは、とても勇気と覚悟のいる行動だと思います。中山さんは26歳で独立、それから3年後に大浦さんが加入したので、二人とも20代の若さで「農業で生きていく」という覚悟を決めたことになります。そして、それが継続できているのは、栽培技術や経営センスが「確かなもの」だからこそです。彼女たちの活躍は、女性ファーマーに勇気と希望を与えてくれることでしょう。

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