COLUMN 01 未来農業報告書

HOMECOLUMNCOLUMN01 > 仲卸業×小売業×農業で、野菜のおいしさを伝える

野菜を売る人、作る人、間に入って卸す人……野菜が消費者のもとに届くまでに、様々な立場の人が関わっています。それぞれの立場には、それぞれの物の見方があって、いろいろな立場に立てば、それだけいろいろな物の見方ができるようになります。視野が広がるということは、世界が広がるということ。
広い世界を見渡して、今いる立場を見つめ直せば、自ずと「やるべきこと」が見えてくるものです。
 
創業1976年の仲卸業・株式会社綜合青果の「2代目」を務める飯島弘道さんは、多角的な事業を展開してきた結果、その「やるべきこと」を「野菜のおいしさを多くの人に伝えること」と捉えました。
綜合青果では仲卸業だけでなく、小売業として青果店「ヒロトストア」を水戸市内で2店舗運営し、WEBサイトで青果物を販売する「ベジタブル&フルーツマーケット」を展開。
そして、2015年に農業を主な事業とする農業法人いまつばら食品工業を設立しました。
仲卸業と小売業、そして農業へ。飯島さんの世界が広がるにつれて、野菜のおいしさも人々に広がりつつあります。
 

 
 

農業を始めたきっかけは、冷凍枝豆にあり

 

いまつばら食品工業を設立し、農業部門を始めたきっかけは?
 
飯島さん 私の子どもが冷凍食品の枝豆を「おいしい、おいしい」と言って食べているのを見て、「冷凍の枝豆なんて、おいしくないに決まっている」と高をくくっていたのですが、実際に食べてみると……これが本当においしかったんですよ。私たちが普段販売している枝豆よりも。そのことにとてもショックを受けました。あまりに悔しくて、冷凍食品の加工業者に電話でそのおいしさの理由を尋ねてみたところ、そちらでは枝豆を収穫した後、3〜4時間後には瞬間冷凍しているとのことでした。冷凍した瞬間から基本的には鮮度が落ちないので、おいしい状態を保てるんですね。
 
かたや、私たちが販売していた枝豆は、そうはいきません。例えば群馬県で栽培している枝豆の場合、生産者が早朝3時に収穫したとしても、それから袋詰めをして、トラックに積んで、販売して……お店に届くのに最短でも 三日はかかるんですよ。夏野菜は特に、鮮度によって味が変わってくるので、そこで決定的な差が生まれてしまう訳です。
 
それならば、自分の会社で野菜を作ってしまおうと思いました。そうすれば、朝収穫した枝豆を、夕方にはお客様に提供できます。新鮮な野菜を、お客様に食べてもらいたいと考え、綜合青果の農業部門にあたる「いまつばら食品工業」を設立しました。
 
春は春キャベツ、夏は枝豆。秋には八頭(里芋)、冬はアブラナを栽培しています。主力は枝豆です。
 
実践してみてお客様の反応はいかがでしたか。
飯島さん 以前よりも「おいしい」という声をたくさんいただきました。さらに鮮度のよいものを販売しようと思い、袋詰めの工程をカットして、枝がついたままの束の状態でお店に並べたこともあります。その時は、朝一で収穫して昼頃にはお店に並べることができました。お客様からは「枝が邪魔で、ゴミが増えるから嫌だ」という意見も挙がりましたが、それでも「味はおいしい」と喜んでいただけました。
 

3つの業態が掛け合わさり、3つのメリットを生み出す

 
一次産業(農業)と三次産業(流通・販売)を組み合わせるメリットは何でしょうか。

 

飯島さん 一つは、いろいろな企画を試せることですね。自社ではなく、生産者に栽培を依頼していた場合、栽培がうまくいかなくてもその補償はできません。そうすると、生産者の方にも迷惑がかかってしまいます。自社で生産すれば、栽培に失敗しても生産者に迷惑をかけないで済みます。そのため、失敗を恐れずに大胆な企画にもチャレンジできます。
二つ目のメリットは、お客様にタイムリーな情報を提供できることです。収穫から販売までを自社で行うことで、収穫・出荷の有無や物の良し悪しなどの情報を、お客様へダイレクトに発信できます。使っている農薬や農法を自分たちで管理できるので、お客様に誤った情報を流すこともありません。間違いの可能性を、今までの流通よりも減らすことができて、正々堂々「これは、こういう野菜ですよ」と胸を張って提供できます。
三つ目は、先程もお話しましたが、やはり何といっても鮮度のよい物をお客様に提供できることですね。
 

 

三方よしの価格設定で、野菜の美味しさを伝える

 

生産物の特徴は何でしょうか。

 

飯島さん 「自分の子どもに食べさせられる野菜かどうか」を重要視しています。土壌消毒や残留農薬、除草剤などの面で、法的に安全基準をクリアしていてお店で販売できるとしても、自分の子どもに「食べさせたい」と思えない野菜は作りたくないですし、お店でも提供したくないですね。安全面には特に気を使っています。ものすごく手間も時間もかかっていますが、食の安全を守ることは野菜を作る上で譲れない部分ですね。
 
そのため、なるべく化成肥料は使わないようにして、鶏糞、籾殻、牡蠣殻などの有機肥料を主に使用しています。使っている肥料のうち、95%は有機肥料です。
 
仲卸業、小売業を営む「綜合青果」としてのコンセプトは?
 
飯島さん 野菜を毎日食べてもらえるように、適正価格で販売することを心がけています。生産者も消費者も納得してもらえるような設定にして、価格と品質のバランスを取るようにしています。ただ、あまりに安すぎてしまうと生産者の苦労が報われません。自社で生産もしているから、生産者の事情や気持ちもわかります。だからこそ、適正価格もつけやすい。当社では売り手も買い手も作り手も、皆が喜ぶような価格設定にしています。
 
今後の展開をお聞かせください。
 
飯島さん 今作っている品目を確実に量産できる体制を整えたいですね。ゆくゆくは、居酒屋さんや大手の飲食店などに直販できるようになりたい。それと、企画ですね。例えば、朝採った枝豆を、夕方には居酒屋で提供する、みたいな企画を企業と寄り添ってやっていけるような会社にしたいです。最近は、こうした企画に対応できる農家が減ってきているので。当社では小回りが利く農業を目指していきたいです。
また、私たちの仕事を通じて、一人でも多くの人に野菜のおいしさを伝えていければと思っています。「野菜はおいしいものなんだ!」と消費者にわかっていただければ、これほど嬉しいことはないですね。

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【取材録】

平日の午後の昼下がり。綜合青果が運営する青果店・ヒロトストアのレジには、多くのお客様がレジに並んでいました。決して大きくない店内に、きれいとは言い難い陳列。専用の駐車場もなく、スーパーのような行き届いたサービスもない。それでも、お客が列をなすほどにやってくるのです。彼らの目的は、付加価値ではなく、青果物そのもの。綜合青果で仕入れた青果や、いまつばら食品工業で作られた野菜自体が、消費者のお目当てなんです。その光景を目にして、飯島さんの「野菜のおいしさを広める活動」は確実に広まりつつあると感じました。この記事が、その活動に一役買えれば。

■株式会社綜合青果 >http://jp.chinavegnet.com/c/1185
■ヒロトストア >http://www.hiroto-store.com/
■ベジタブル&フルーツマーケット >http://www.vfn-market.com/teikibinn.html

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