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HOMESPECIAL > 震災でも揺るがない心が試される時

 380年の歴史がある老舗旅館、筑波山江戸屋。しかし震災があってからの3ヶ月はキャンセルが続出。風評被害の影響は茨城の観光にも大きな影を落としています。(写真=筑波山江戸屋の吉岡さん(手前)と筑波農場の小久保さん)

老舗の取り組み

 近年、江戸屋では地域の食材を積極的にメニューに取り上げてきました。今、その姿勢を問われることとなりましたが、若女将の吉岡さんはこうおっしゃいます。
 「現状では茨城県産の食品を敬遠される方がいらっしゃるのも事実です。私どもも辛い時期にありますが、地元で採れる素晴らしい素材を差し置いて、茨城産は使っていないから安心ですと言うつもりはないのです。生産者の皆さんが市場へ出されている野菜や肉を信頼していますし、これからも地元の食材を使い続けていく気持ちに変わりはありません。」
 そんな江戸屋が見込んだ特別の米があります。お客様にこのお米は何?と聞かれることも多いという、地元で取れた常陸小田米。その生産農家に案内していただきました。

土はこたえてくれる

常陸小田米の生産者、筑波農場の小久保さんにうかがいました。
 「この地域は(つくば市小田地区、北条地区)昔から優良食味米の産地として有名で、宮内庁にも納めていた地域です。5年前に法人化する際、よりおいしい米作りの為にと採用したのが、カバークロップやアイガモ農法といった、より自然に近い栽培法でした。」
 カバークロップとは稲を刈り取った後に、土壌の浸食防止や雑草抑制、景観の向上などを目的として、地表を覆う別な植物を栽培することです。筑波農場ではレンゲ草を採用し、花を楽しんだ後はそのまま機械で土にすき込んで緑肥にするそうです。アイガモ農法や通常の5割以下の低農薬で栽培する特別栽培法を複合させた、より自然で安全な米作り。消費者として好感が持てるお話しです。
 「いい農業をやるにはまず土作りからなんです。実際こうした取り組みの結果カエルの卵が戻ってきたり、測定値ではっきりと違いが出るほど食味値が上がってきました。手間はかかります。でも機械の力も借りながら、できるだけ手をかけていきたい。安全でうまい米を作るには手間がかかるのは当たり前。当たり前のことを当たり前にする百姓やりたいなという思いです。」

日本の原風景を再び

 耕作放棄地を減らすために棚田の再生にも着手しています。案内していただくと、五月の日差しを受けて水をはった棚田がきらりきらりと反射していました。植えたばかりの苗の間でおたまじゃくしが泥煙をあげています。最近はあまりみかけなくなったアメンボもいっぱい。初めての景色なのに、なんて懐かしんでしょう。
 元は3mを越す篠竹が覆うガサ山でしたが、今では市のモデル事業になり、できた米を旅館組合で使ってもらうという計画が進んでいます。開墾や導水にかかった手間はとても採算の合うものではありませんが、いい米が採れる手応えを感じている小久保さん。名品小田米の中でも更に特別な棚田作りの小田米には、昔の屋号、喜右衛門の銘を使おうと決めています。

通い合う気持ちを糧に

 筑波農場では農業体験の場も提供しています。ほとんどが首都圏からで、田植えには例年200名ほどの参加がありますが、今年は120名と少なめ。やはり原子力発電所の事故による影響です。
 「ただ、今回参加された方たちは以前にも来たことのある方が多く、茨城の米は大丈夫だよ、安心だよ、ということを一緒に発信しようという思いで参加してくれた方が多いんです。ありがたいです。今年は特にやって良かった。」と、消費者の応援がどれほど生産者の力になるかが伝わるお話しでした。
 江戸屋にも心に残る交流がありました。一月半滞在されていた福島からの被災者が他所へ移転する前夜、サプライズで宿自慢の創作料理でもてなしたところ、たいへん喜んでいただき、お礼にと鉢植えを贈られたそうです。それはガーデニングが趣味というその方が福島の自宅から持ち出してたいせつに育てていた花でした。食を通じて伝わる思いがある。脈々と続いた宿の歴史がそれを知っているから、地元食材との向き合い方にもぶれがないのだと思いました。

【取材録】

■筑波山江戸屋
茨城県つくば市筑波728 TEL.029-866-0321
>ホームページ http://www.tsukubasan.co.jp/edoya/
■筑波農場
茨城県つくば市小田2830 TEL.029-867-3433
>ホームページ http://shop.odamai.com/

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